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労働法の改正は規制強化か適正なルールの再構築か?(上)

1.労働法制を考える出発点―日本の雇用が抱える問題点

 2011年に労働法制がどうなるかを展望するには、これからの雇用がどう変化するかを整理しておかなければならない。労働法制は、その時々の雇用情勢と 独立して存在することはできないからである。現在の日本の雇用を考えるとき、若年層の雇用悪化、高齢労働者の増加、有期雇用労働者の増加の3点が特に大き な問題である。

若年層の雇用悪化

 2008年9月のいわゆるリーマン・ショックは、日本経済に大きな打撃を与えた。それから2年半が経過しようとしているいま、他の先進諸国が立ち直りつ つある中で、日本は停滞感から抜け出せないでいる。その理由の一つは、国内市場の縮小である。日本の名目国内総生産(GDP)は、ここ20年間、470兆 円から515兆円の間を上下している。2005年以来、日本は人口減少局面に入っており、今後、劇的に国内市場が拡大するとは考えづらい。むしろ、縮小傾 向が強まると予想される。企業は利益を求めて行動するので、縮小していく市場に対して新たな設備投資をしようとはしない。これから拡大が期待される中国を はじめとした新興国に、経営の軸足を移そうとしている。

 このような企業行動は、国内の雇用にも影響している。それが明確に出ているのが、若年層の雇用である。厚生労働省が2011年1月18日に発表した「平 成22年度大学等卒業予定者の就職内定状況調査(平成22年12月1日現在)」によると、今年3月に卒業する大学生の就職内定率は68.8%で、前年同期 を4.3ポイント下回った。

 新卒の内定状況が悪いのは、新卒者に対する求人が大幅に減っているためである。リクルートワークス研究所が2010年4月21日に発表した「第27回 ワークス大卒求人倍率調査(2011年卒)」によると、2011年卒の求人倍率は1.28であり、前年の1.62から大幅に低下した。1.28という水準 は、1996年卒の1.08や2000年卒の0.99よりは高いものの、近年になく厳しい状況であることに変わりはない。

 求人数の内訳を見ると、5000人以上の大企業では増加しているが、300人未満の中小企業の採用意欲が大きく落ちている。多くの中小企業は、国内市場 を対象に仕事をしている。将来見通しが立たない中で、中小企業が雇用増に慎重になるのは無理もない話である。

 これから労働市場に出て働こうとする新卒者たちに、しっかりした雇用の場が用意されないことは、彼(女)らに良質な能力育成の機会が提供されないことを 意味する。これは、将来の日本経済の競争力に悪影響を及ぼす。多くの経営者は、この点に気づいているものの、目先の利益を出すために、正社員の数を極力少 なくして、需要の変動には有期雇用の人たちで対応しようとしている。若年層の能力開発につながるような雇用の場をどうやって用意するか、労働組合としても 看過できない課題である。

高齢労働者の増加

 日本社会の高齢化は急速に進んでいる。65歳以上の人たちが全人口に占める割合(高齢化率)を見ると、2009年10月1日時点で22.7%であり、 2015年には26.9%、2025年には30.5%になると予測されている。日本社会の高齢化の特徴は、そのスピードが他国に比べて速いことである。高 齢化率が7%を超えてからその倍の14%に達するまでの所要年数(倍化年数)は、フランスが115年、スウェーデンが85年、比較的短いドイツが40年、 イギリスが47年であるのに対し、日本は24年(1970年→94年)であった。

 高齢化は働き手の減少に拍車をかけている。総人口の減少は2005年以降の現象だが、労働力人口の減少は1998年から始まっている。厚生労働省の雇用 政策研究会が2007年に発表した推計によると、女性や高齢者の雇用促進策をとらない場合、2017年の労働力人口は2006年に比べて440万人減少し て6217万人に、2030年には1073万人減の5584万人になるという。

 このような大幅な労働力人口減少が現実のものとならないように、政府は高齢者の雇用と女性の就業促進策を打ち出している。高齢者雇用については、高年齢 者雇用安定法を2004年に改正して、65歳までの雇用確保措置をとるよう企業に求めている。他方、女性労働については、出産を経ても働き続けられるよう に、育児休業法の充実や次世代育成支援策策定の義務化を行っている。

 日本の高齢者は働く意欲が旺盛で、健康なうちは何歳になっても働き続けたいと考える人が多い。公的年金の財政悪化や労働力人口の減少を少しでも食い止め るには、65歳を超えて働き続けてもらうことが重要である。高齢者雇用は、労働組合にとっても大きな課題である。

有期雇用労働者の増加

 総務省が発表している「労働力調査」によると、2010年7-9月期の非正規の職員・従業員(有期雇用労働者)の割合は34.5%である。雇用労働者 5137万人の3人に1人は、雇用契約期間に定めのある労働者になっている。「労働力調査」が有期雇用契約の労働者の統計を発表し始めたのは1984年の ことである。そのときの割合は15.3%だった。その後、徐々に上昇し、1990年に20%を超えたが、1996年まではほぼ横ばいで推移した。しかし、 1997年以降、上昇傾向が明確になり、2000年26.0%、2003年30.4%、2006年33.0%、2009年33.7%と年を追うごとに高 まっていった。

 有期雇用労働者の増加は、(ア)購買力の低下、(イ)能力開発機会の減少、(ウ)社会保険の担い手の減少という問題を引き起こす。一般に、有期雇用労働 者の給料は正社員よりも低いため、雇用労働者に占める有期雇用労働者の割合が増えると、雇用労働者全体の収入は減少する。これは、GDPの約6割を占める 個人消費に悪影響を与え、全体の需要を押し下げることになった。景気が悪化するときに下支えとなるべき個人消費が弱くなったために、日本経済の不況からの 回復力が低下してしまった。1990年代半ば以降の景気の長期低迷は、このあたりにも原因があると考えられる。

 企業は、正社員に対する能力開発には熱心だが、有期雇用労働者にはあまり教育訓練をしない。それは、いつやめるかわからない従業員に教育投資をしても回 収できなくなるリスクが大きいためである。同じような潜在的な能力を持っている正社員と有期雇用労働者を比べると、豊富な訓練機会を与えられる正社員の方 が高い能力を身につける確率が高いのは論を待たない。全労働者に占める有期契約者の割合が増えることは、教育訓練の場を十分に与えられない労働者が増える ことを意味し、結果として、日本全体の能力低下につながることになった。

 有期雇用労働者増加の第3の問題は、社会保険に加入する労働者が減少して、社会保険の機能が弱くなる点である。日本の社会保険は、週あたりの労働時間数 によって加入するか否かが決められている場合が多い。有期雇用労働者は、正社員よりも労働時間が短いのが一般的であり、社会保険の雇用主負担分を払いたく ない経営者は、あえて短時間雇用を選択する。すると、社会保険に未加入の労働者が増えることになり、社会保険がセーフティーネットの役割を果たせなくな る。

 目先の利益だけ考えれば、比較的安く使える有期雇用労働者を多用する企業行動にも合理性がある。しかし、中長期の経済成長と日本社会の安定という視点か ら考えるとき、有期雇用労働者の過度の増加は大きな問題である。この点も労働組合として対応しなければならない課題である。

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