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100エッセーの完成「産学連携若年層育成プロジェクト」

2007年8月22日に始めた100エッセーは5年の歳月を経て、ようやく100に達することになりました。これまでお読みくださったみなさん、ありがとうございますwink

 

100を飾るのは、2012年7月30日の日本経済新聞朝刊の教育面に掲載された拙文の元原稿です。編集者からの要請を受けて、この原稿に手を加えたものが新聞に掲載されました。

ここで比較するつもりはありませんが、ある方から「前半の論調がいつもの藤村さんの書き方とは違いますね」と指摘されました。

そうです。その通りです。編集者の要望で前半を書き換えたのでした。ちょっと長くなりますが、おつきあいいただけるとありがたいですpen

 

 

 

 

 2012年7月、一つの産学連携プロジェクトが始まった。大学教育と企業の新入社員教育を一つの流れの中でとらえ、わが国の若年層の育成を充実させることを目的とした研究会である。NPO法人人財創造フォーラムが主催し、大学側は東京の私立大学8校と首都大学東京、企業側は主要産業の代表的企業11社が名を連ねている。

 人財創造フォーラムは、日本企業の人材育成のあり方について議論し、より良い方向を打ち出すために2008年に設立されたNPO法人である。現在、約130社が会員になっているが、この4年間の議論を通して、大学と企業の連携が不可欠であるとの認識を持つようになった。

 日本企業がこれからも競争力を維持・向上していくには、若年層がしっかりしていなければならない。大学での教育と企業に入ってからの教育訓練を「若年層の育成」という観点から一連のものとしてとらえると、これまでとは違った新たな知恵が出てくるのではないか―将来の日本社会を担う人材の育成にイノベーションを起こしたいという思いがこのプロジェクトには込められている。

 

 これまで、企業側から大学教育に対して様々な「注文」が出されてきた。もっと実践的な教育をしてほしいとか、グローバル化に対応できるような人材を育ててほしいといった要望がことあるごとに表明されてきた。大学もそういった声に応える形で「キャリア教育」を充実させ、入学時から働くことを意識させる取組を展開している。しかし、そういった試みは、必ずしも成功しているとは言えない。その原因は、大学と企業の連携不足にあると考えられる。

 大学教育の本質は、論理的思考力を高めることであり、教員や他の学生との議論を通して、新しいものを生み出す力を養うことである。その象徴的な活動が論文を書くことである。論文を書くという行為は、働き始めてから必要とされる能力の養成に役立っているのだが、この点が企業側に十分に伝わっていないように見える。

 論文を書くには、問題意識が必要である。自らの興味関心にしたがってテーマを設定する。それは、しばしば「なぜ○○なのか」という疑問形で表現される。その疑問を解くために仮説を設定し、それを検証するために必要なデータを集め、一つ一つの仮説を検証していく。その結果、一定の結論が得られ、残された課題が明確になる。

 このプロセスは、企業において日常的に展開されている仕事の流れとほぼ重なっている。例えば、新製品の売れ行きが予想に反して低迷することがある。なぜ売れないのかについての仮説を立て、その仮説を検証するために必要な情報を収集する。既存のデータが不十分であれば、独自の調査を企画・実行することも必要になる。そうして集められたデータを使って仮説を検証し、どの仮説が最も当てはまりそうかを確定し、それに基づいた対策を立てて実行する。論文を書くことにまじめに取り組んできた学生には、働くために必要とされる基礎的な能力が身についているのである。

 

 企業の採用担当者は、即戦力がほしいと言う。この言葉を聞いた学生たちは、公的資格の取得が有効だと考え、大学生としての本来の勉学はそっちのけで、資格に関係する勉強に励む。でも、企業が求めているのは、資格取得者ではない。自分の頭で考え、自ら動いて課題を解決する力を持っている人材である。

 採用担当者と学生の間に誤解が生じてしまうのは、両者の橋渡しが不十分なためである。大学と企業が、大学での学びの内容と手法を共有し、採用後の新入社員教育との関連性を意識するようになれば、大学生たちは企業が発するメッセージを正しくとらえ、自らの学びに活かしていけるはずである。

 いま、経営のグローバル化を担う人材の育成が喫緊の課題になっている。大学は、外国語教育に力を入れることで自らの役割を果たそうとするが、企業側が求めているのは、外国人と信頼関係を結び、コミュニケーションをとることのできる人材である。外国語の能力は確かに大切だが、それ以上に求められるのは、語るべきコンテンツを持っていることである。豊富な知識と教養を持ち、論理と情の両方を理解できる人間でないと、外国人と腹を割って話すことはできない。

 大学がこれまで提供してきた教育には、グローバル人材の育成に必要な要素がたくさん含まれている。それを学生に再認識させ、日々の学びの中にこそ企業に入ってから活躍するために必要な能力要素がちりばめられていることをわからせる必要がある。それには、企業の協力が欠かせない。抽象的な言葉ではなく、具体的な人材像が企業側から発信されることで、大学生が本当に求められているものに気づき、自らの学び方を変えていくのである。

 

 産学連携の重要性は、すでに言い古された感があるが、こういう時代だからこそ、実務者が膝を突き合わせて語り合い、具体的な実行策を創り出す必要がある。2年後にとりまとめる予定のプログラムに期待していただきたい。

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