社会の基本的枠組みを決めるのは政治
2007年夏の参議院選挙は、自民党が大幅に議席を減らし、民主党が大きく議席を伸ばすという結果で終わった。今回の選挙でも、労働組合は比例区を中心に候補者を擁立し、選挙戦を展開した。
そもそも労働組合が選挙活動をするのはなぜだろうか。労組が政治に関わる必要があるのだろうか。この疑問を考えようというのがこの連載の目的である。労 働組合と政治の関わりについて、①政治が生活に及ぼす影響、②目指すべき社会のあり方と労働運動、③政治が決める社会のあり方という3つの視点から考えて みたい。
労働組合員に対するアンケート調査の中で、「労組が取り組んでいる活動のうち、やめてほしい活動は何ですか」とたずねると、例外なく第一位にあがるのが 政治活動(選挙活動)である。選挙が始まると、選対本部は労組の支部に対して「○月○日○時、△の場所に□名出して下さい」という「動員」をかける。組合 員は
、理由を十分説明されることなく、休日をつぶして指定された場所に出かける。自分が一度でも話したことのある人が候補者になっ ているのなら、まだやる気も出る。しかし、大半の選挙活動は、まったく面識のない候補者のために貴重な時間をとられることになる。組合員が「やめてほし い」と考えるのももっともである。
約10年前、ある労働組合で21世紀の労働組合のあり方についてビジョンをつくるために、若手組合員を中心とした委員会が組織された。私は、その委員会 にアドバイザーとして加わり、一緒に議論した。そのときに、真っ先に話題になったのが政治活動だった。「政党支持は個人の自由であるはずなのに、労働組合 が特定の政党を支持するのは問題ではないか」、「選挙のときに動員されるのは納得できない」、「21世紀の労組は政治活動と一線を画すべきだ」―政治活動 に対する若手組合員たちの不満はとても大きかった。
そこで、私は、次の問いを発した。「私たちは、年金や健康保険といった社会保険に加入しています。これは、労働者と使用者の双方が掛金を払って運営され ていますが、掛金の金額は誰が決めているのでしょうか。」「私たちは、快適な生活を営むために、公共サービスにお金を払っています。どのサービスにどれだ けのお金をかけるかを決めているのは誰でしょうか。」若手組合員たちは正確に答えてくれた。前者は国会であり、後者は地方議会である。
私たちは、法律や条令によって社会のあり方を決めている。最近、社会保険庁のずさんな年金管理の実態が明るみに出て、国民の関心を集めているが、社会保 険庁という役所を作り、公的年金の管理運営を任せることを決めたのは国会である。国会議員の賛成・反対によって、私たちの社会の仕組みが決まるのだから、 そこに、働く者の声を直接代弁してくれる人を議員として送り込んだ方が、私たちにとって、より望ましいはずである。ここまで話が進むと、若手組合員たちも 「労組が政治に関わる必要があるのかもしれない」と考えるようになった。
日本の労働組合は、企業別に組織されているところが大半であり、企業内の問題解決にはとても優れた能力を発揮してきた。しかし、社会全体の課題に対し て、労働組合は有効な力を発揮してきたとは言い難い。日本という社会で活動している以上、企業は法律によって決められたさまざまな制度を守らなければなら ない。一企業の労使で話し合い、その時点での最適化を達成したとしても、法律が改正されて制度が変われば、その意思決定は最適でなくなる。社会制度の制定 に何らかの形で参画しなければ、本当に住みやすい社会は達成できない。労働組合が政治に関わることが必要だと考える最大の理由がここにある。
投稿者プロフィール

-
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール
最新の投稿
再び100エッセー2016.04.04143 映画『マイ・インターン』に学ぶ高齢期の働き方(下)
再び100エッセー2016.04.03142 映画『マイ・インターン』に学ぶ高齢期の働き方(中)
再び100エッセー2016.04.02141 映画『マイ・インターン』に学ぶ高齢期の働き方(上)
再び100エッセー2016.04.01140 情報の真偽を見極める眼を育てる