労働組合と政治 その2

政治の対立軸


 労働組合は、組合活動には熱心だが、労働運動は停滞していると言われる。企業内で経営者と話し合って労働条件を決めたり、従業員の問題を解決したりする ことが組合活動であり、社会の仕組みを変える行動を展開したり、制度改正を要求したりすることが労働運動である。労働組合の動きをこのように分類して議論 するのは必ずしも一般的ではないが、冒頭の表現は、日本の労働組合の現状をよく表している。


 日本の労働組合の9割以上は企業別に組織されており、企業内の課題解決に多くの労力を費やしている。企業別労働組合が組織内の問題解決に取り組むのは当 然である。しかし、労組が自分たちのことだけ考えて行動し、社会全体の問題解決に目を向けないとすれば、本来の使命の半分しか果たしていないことになる。 それは、労働組合とは社会的に行動することを期待された組織だからである。


 労働組合が内向きになり、労働運動に熱心でなくなった理由の一つとして、政治の世界での対立軸が不明確になったことがあげられる。1989年のベルリン の壁崩壊とそれに続く社会主義諸国の資本主義化は、「資本主義」対「社会主義」という明確な対立軸をなくしてしまった。そもそも、資本主義は万全の体制で はなく、さまざまな問題を孕んでいた。それらの問題点を解決することのできる「次の社会システム」として登場した社会主義が資本主義に緊張感を与え、結果 として資本主義の進化につながった。しかし、東西冷戦構造崩壊の中で、「資本主義が勝った」という誤ったメッセージが流れ、めざすべき社会システムが見え なくなってしまったのである。ナショナルセンターである連合や野党の政治家が与党とは異なる形で「次の社会」を描き、有権者に選択を迫るという構図ができ ていれば、政治に対する関心度はもっと高まるはずである。


 実は資本主義自体、多種多様である。アメリカ型の資本主義は、決して世界標準ではなく、ヨーロッパに行けば、フランス型、ドイツ型、スカンジナビア型な ど、少しずつ異なる資本主義体制がつくられている。見方を変えれば、世界は資本主義のあり方をめぐって、熾烈な競争を繰り広げていることになる。魅力的な 仕組みを作り上げた国にヒトやカネ、情報などの経営資源が流れ込んでくる。


 国によって歴史が違い、価値観が異なる。そこに独自性が生まれ、他国との差別化要因が出てくる。日本の独自性は、善意と信頼を基盤にして社会を作ってき たことにある。高品質な社会インフラ、借りたものは必ず返すという人々の感覚、信頼には信頼で応える取引慣行などは、他の国には見られない日本が誇るべき 文化である。他国と競争して優位に立つには、この優れた点をさらに良くする方向で社会の仕組みをつくっていかなければならない。

 それを考慮すると、現代の対立軸は次の二つになる。一つは、「市場競争を一層強力に推し進めるが、性善説に立ったしくみでは 抜け駆けやアンフェアが出てくるので、ルールをたくさんつくってそれを守らせる。もし守らなかった場合、厳罰に処す」という考え方。他の一つは「市場競争 は大切だが、競争の質はそこに参加するプレーヤーの質に左右される。法律には必ず抜け穴がある。その穴を補ってしくみをうまく機能させるにはプレーヤーの 質を高めなければならない。質の高いプレーヤーの育成に資源を投入する」という考え方である。
 

 筆者は、日本が得意としてきたものをさらに伸ばしていくには、後者の考え方に立った仕組みがよりふさわしいと考えている。質 の高いプレーヤーの育成には時間がかかる。しかし、日本の競争力を高めていくには、避けて通れない道である。政治の選択肢としてこの点を明確にすることが 重要である。

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール