労働組合と政治 その3

質の高いプレーヤーを育てる


 市場競争が良い結果をもたらすには、そこに参加するプレーヤーの質を高めることが大切である点を前回述べた。では、質の高いプレーヤーとはどのような条 件を備えている必要があるだろうか。私は、(ア)全体の中での自分を意識しながら行動することと、(イ)長期の視点で競争をとらえ、短期の利益に惑わされ ないことの二点が重要だと考えている。


 市場競争の結果、「神の見えざる手」によって最適な状態が達成されると説いたのはアダム・スミスである。1776年に出版された『国富論』にその記述が あるが、彼はその17年前に『道徳感情論』を出版し、競争が最適状態をもたらす上で前提となるプレーヤーの態度について述べている。スミスは、自分の行動 が第三者から見て共感を得られるかどうかを考えながら行動することが大事であると主張する。自分さえよければいいという行動をとると、周囲の理解が得られ ず、結局は取引関係から閉め出されてしまう。市場競争に継続的に参加するには、自分の行動を律することが必要だと考えていたのである。


 これは、近江商人の伝統の中で育まれた「三方よし」に通じるものがある。三方よしとは、商取引は売り手と買い手にとって良いだけでなく、世間にとっても 良いものでなければならないという考え方である。近江商人は、地元を離れて全国を行商していた。知らない土地で商売をしていくには、その土地の人たちに受 け入れてもらう必要があるので、その地域に恩恵をもたらすように心を配らなければならないとされた。他人との関係の中で自分をコントロールする必要性を近 江商人も重視していたのである。


 質の高いプレーヤーが備えておくべきもう一つの点は、長期の視点で競争をとらえる能力である。日本は、ものづくりを得意としてきた。他国にはまねできないようなものを、比較的低価格で製造し、世界中に提供してきている。


 ものづくりにおいて大切なのは、継続性である。技術は、イノベーションによって大きく飛躍するときもあるが、基本は積み重ねで成り立っている。数年か ら、場合によっては10年以上の年月をかけて研究開発を行い、さまざまな困難を乗り越えて、一つの製品ができあがっていく。できあがった製品にはさらに改 良が加えられ、より性能の高いものするためにエネルギーが注がれる。この営みの中で、優秀な日本製品が生み出されているのである。


 現在の株式市場は、投資家への情報提供のために、四半期ごとの決算を要求している。一部の産業は3カ月ごとに結果が出るので、この方式は意味を持つが、 製造業では無理な場合が多い。しかし、投資家は「いいニュース」を要求するので、経営者は無理をして「いいニュース」を作り出すという。これで本当のもの づくりができるのだろうかと心配になる。


 株式市場のあり方を決めるのは法律であり、法律は国会の議決で決まる。経営者は、投資家の動向を無視できないので、長期の利益を考えながらも目先の業績 に心を奪われる。そこで、労働組合の役割が重要になる。日本の競争力を考えたとき、どのような株式市場が適切なのか、どのような会社の仕組みが望ましいの か、長期の視点から意見を述べる立場にある。これは、特に、産業別組合やナショナルセンターの役割である。


 政治は、政治家に任せておけばいいものではない。政治は私たちの問題である。組織率が低下したとはいえ、労働組合には一千万人の組合員がいる。彼らの家 族を含めれば、相当な数になる。働く者が自分の問題として社会のあり方を真剣に考え、選挙に行って意思表示するようにうながすことが、政治における労働組 合の最大の責務である。

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール