能力開発の基本:仕事に対する誇りとプロ意識

 今回は、プロとは何か、私が考える「プロ意識」とは何かについて考えてみます。プロ意識とは、仕事に対して誇りを持ち、仕事の結果に責任をとれる ことだと思います。プロを広くとらえ、どんな人でもプロ意識を持てるはずだというのが私の考え方の出発点です。能力開発において、各人がプロ意識を持つこ とはとても大切です。今回のエッセーから、その点をわかっていただけるとうれしいです。

 

プロ意識を持とう!

 「あなたはプロですか」と聞かれて、何のためらいもなく「そうです」と答えられる人はあまり多くないだろう。「プロ」という 言葉から、私たちがまず思い浮かべるのは、プロスポーツの選手たちである。プロ野球の選手、Jリーグのプレーヤー、プロゴルファー、あるいは大相撲の力士 など、卓越した技を持ち、熾烈な競争を勝ち抜いてトップグループに駆け上がった人々である。それぞれの競技人口は多いが、それを生業(なりわい)にできる くらいになるのは、ほんの一握りでしかない。

 プロとして次に連想するのが、「職人」と呼ばれる人々である。宮大工、刀鍛冶、友禅絵師などの伝統工芸分野で活躍する人、旋 盤やフライス盤などの汎用工作機械を使って鉄の塊から部品を削り出す機械工、食材を自由自在に調理しておいしい食べ物を提供する料理人など、手に職を持 ち、無から有を創り出す仕事をしている人も「プロ」と呼ばれる。企業の中に目を転じると、「あの人は○○のプロだ」という言い方がよく使われる。営業、経 理、社会保険など○○に入れられる文字は多種多様であるが、この場合のプロは、その仕事をさせれば右に出る者は誰もいないくらい水準の高い成果を出す人を 指している。

 このように見てくると、プロと言われる人は、限られた範囲にしかいないのではなく、いろいろな場所に存在するようである。大 半の人は、「私なんて、とてもプロではない」と思っている。でも、自分自身の仕事や能力をていねいに分析すると、意外にプロの要素をたくさん含んでいるこ とに気づく。一般にプロと呼ばれる人々には、自他共に認める知識、経験、技術、人脈があり、同じ世界ならば組織を超えて通用する能力がある。しかし、彼 (彼女)らは最初からプロだったかというと決してそうではない。普通の人が、場所と機会と指導者に恵まれ、そこに本人の努力が重なり、結果として特別な能 力を身につけたのである。

 では、プロになるにはどうすればいいのか。私は、「プロ意識」を持つことが第一歩だと考えている。プロとは、自分の仕事に誇 りを持ち、仕事の結果に対して責任をとれる人である。どんな仕事にも意味があり、仕事に誇りを持つことが重要である点は前回述べた。仕事に対して誇りを 持っていれば、自分が任されたことをやり遂げ、その結果に責任を持とうという気持ちが生まれてくるはずである。古寺の修理を担当する宮大工は、「百年、百 五十年後に修理する宮大工に見られても恥ずかしくない仕事をしたい」という気概を持って働いている。これこそがプロ意識である。

 サラリーマンの仕事にも、プロ意識があってしかるべきだ。「経営者や上司は、自分を信頼してこの仕事を任せてくれた。自分の 価値も認めてくれている。だから、自分もその期待に応えて、責任ある仕事を成し遂げたい。」このように従業員が考えて仕事に取り組んでくれれば、企業業績 は自ずと上がっていくだろう。

 仕事の重要度には差がある。難しい仕事もあれば、簡単な仕事もある。しかし、個々の仕事の積み重ねで企業が成り立っているの だから、おろそかにしていい仕事などないはずだ。パートや派遣社員も企業の中で一定の役割を果たしている。仕事を任されている以上は、正規、非正規に関係 なく、責任を持って働いてもらわなければならない。各自がそれぞれの持ち場でプロ意識を持って働いている組織は、見ていて気持ちがいい。私たちが舞台芸術 に魅了されるのは、そこにプロの仕事を感じるからである。

 プロ意識を持てば、仕事に対する取り組み姿勢も前向きになり、周囲からの信頼も増し、さらに大切な仕事を任される。この積み重ねがプロを作っていく。プロへの道は、日々の仕事の中にあることを忘れてはならない。

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール