職業人生の設計図づくり(中)

自分に合った能力開発の方法を見極める

 チャレンジ精神あふれる人は好まれるが、律儀でまじめな人は好まれない―数年前に大企業の経営者を対象として実施されたアン ケート調査の結果である。職業生涯の設計図を描こうとするとき、世の中で必要とされている能力を身につけた方が得であることは言うまでもない。現在の経営 者がチャレンジ精神あふれる人を望んでいるのなら、そのような人材になっておいた方が、より良い条件の仕事につきやすくなる。しかし、チャレンジ精神あふ れることと職業能力とはどのような関係にあるのだろうか。


 職業人として必要とされる能力は、大きく分けて二つあると考えられる。一つは、個別の作業を実行するために必要とされる能力である。コンピュータを駆使 して資料を作成したり、会計情報を適正に処理して業務報告書を作ったりすることがこれにあたる。この種の能力は、個々の仕事と具体的に結びついており、技 術革新とともに大きく変化していく性質を持っている。

 もう一つの能力は、組織の中で信頼され認められるために要求される能力である。人は、ふつう、組織の中で働いている。自営業 者も、一部の人たちを除けば、必ず他の組織と取引関係にある。「あの人なら安心して仕事を任せることができる」とか、「あの人ともう一度仕事をしてみた い」と思ってもらえなければ、次の仕事はまわってこない。組織の中で働いている場合、まったく仕事がなくなる状況は起こりにくい。しかし、組織の構成員か ら信頼されなければ、大切な仕事を任せてもらうことはできない。「いい仕事」をするには、この能力を持っていることが大前提となる。

 では、冒頭に述べたチャレンジ精神あふれることと律儀でまじめなことは、どちらの能力に関係しているのだろうか。答えは、 「どちらにも関係していない」である。チャレンジ精神や律儀でまじめといった表現は、その人の性質を表すものであり、仕事に直接関わる能力ではない。チャ レンジ精神にあふれていても、具体的な仕事をする能力を持っていなかったり、組織のみんなから信頼されないような行動をとるのでは、職業人として失格であ る。他方、律儀でまじめなために「あの人は頭が固い」と批判されるが、仕事ぶりは堅実であり、周辺を巻き込んで課題を達成するような働き方をしていれば、 組織の中で珍重される。

 不確実性の大きな時代には、チャレンジ精神あふれる性質を持った人材がより多く必要とされるのは事実である。しかし、チャレ ンジ精神に富んだ人ばかり集めて会社を作ると、その会社は、遅かれ早かれつぶれてしまうだろう。それは、チャレンジ精神あふれる人は、種をまくことには長 けているが、まいた種を育てて果実を収穫することには興味を示さない場合が多いからである。ビジネスの種を育て、収益を確保するには、律儀でまじめな人が 必要である。つまり、組織は、さまざまなタイプの人材を適度に組み合わせることによって、大きな力を発揮するのである。

 職業生涯の設計図を描こうとするとき、自分自身の生き方や適性を無視することはできない。六五歳まで働くことを前提とすれ ば、私たちの職業生涯は約四五年間続く。四五年にわたって、自らの生き方や適性に反する仕事を続けていくのは苦しい。そのような働き方をしていると、身体 に変調をきたしたり、心の病に陥ったりしかねない。

 チャレンジ精神あふれるタイプなのか、あるいは律儀でまじめなタイプなのかを見極め、組織の中で信頼される能力を高めなが ら、自分に合った業務遂行能力を身につけていった方が得策である。技術革新に対応しながら業務遂行能力を維持するには、新しいものを受け入れる柔軟性が必 要であることも忘れてはならない。

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール