資系企業で働くことと職業能力の開発

 外資系企業で働くことはカッコいいと考えている人がいるかもしれない。テレビのニュース番組や報道特集などでコメンテーターとして出てくる人たちの中 に、外資系企業で働いている人が多いので、そう思うのも無理はない。しかし、彼らは、外資系企業で働いているから高い能力を身につけたのではない。むし ろ、高度な専門能力があるから外資系企業で活躍できているのである。


職業能力の開発と人的資源管理論

 職業能力の開発は、家庭教育から始まる。他の人々とコミュニケーションをとる力は、言葉を覚えることが基本になる。相手の話 をよく聞き、相手がわかる言葉で自分の意見を伝えるのがコミュニケーションである。その出発は、家庭内の親と子のふれあいである。その意味で、家庭教育は 職業能力形成上、とても重要である。

 学校教育も職業能力開発において重要な役割を担う。俗に「読み、書き、そろばん」と言うが、文字を使って自分の考えを伝える ことは仕事をしていく上で重要な基礎能力になる。大学には、人的資源管理論(Human Resource Management)という科目がある。人的資源という言葉には、ヒトが持つ可能性を開発する意味が込められている。原油や鉄鋼石といった天然資源は、 そのままの状態ではほとんど役に立たない。原油であれば、精製装置にかけて、ガソリンや灯油、ナフサなどに分解する必要があるし、鉄鉱石は、コークスとと もに溶鉱炉に入れて鉄分を取り出すことにより、自動車用鋼板などへの加工が可能になる。天然資源は、自然界から採取し、手を加えて初めて、人間にとって有 用なものになる。その面では、人も同じである。教育や訓練を受けることによって、それぞれが持っている潜在的な能力が開花し、より困難な課題の解決が可能 になる。

能力開発とOJT

 職業能力を高める上で最も有効な方法は、その仕事をすることである。といっても、いきなりその仕事を担当するのは不可能なの で、最初は見習いから始めることになる。見習いとして一定の実績をあげれば、徐々に難しい仕事に移り、最終的に高度な仕事を任されるようになる。このよう に、いま担当している仕事が次の仕事をするための訓練になっているような仕組みをOJT(on-the-job training;実地訓練)という。

 能力開発において、どの仕事をどのタイミングで担当するかはとても重要である。職場における仕事の配分が上司によって行われていることを考えると、どのような上司の下で働くかも大切なポイントになる。
日本企業と外資系企業の違い

 一般に、日本の企業では「上司と仕事は選べない」と言われる。大半の人事異動は、会社側の都合で行われ、従業員本人の意向を 聞くことはあまりない。最近は、社内公募制や自己申告制によって自分の意志で職場を変わることもできるが、まだまだ例外的である。しかし、日本企業では、 人事部や上司が各従業員にとって最適な能力開発の場を提供しようと努力している。本人が自分の将来についてあまり考えていなくても、会社が用意したプログ ラムに乗っていれば一定の能力が身に付くようになっている。

 他方、多くの外資系企業はそういう仕組みを持っていない。本社から派遣された経営者は、自分の在任中に業績をあげなければな らないので、すぐに役に立つ人材を採用しようとする。未経験者を採って育てるという余裕はない場合が多い。その意味で、外資系企業で働こうと思えば、まず は一定の職業能力を身につけていることが条件となる。

 入社後も、常に自分は何ができるのか、何をしたいのかを考え、主張し続けることが必要である。日本企業であれば、黙っていて も異動があり、経験の幅が広がっていく。しかし、外資系企業では自分で手を挙げて次の仕事をとっていかない限り、能力は高まらない。言い換えれば、自分の キャリアプランを持ち、能力開発の場を自分で組み立てていこうとする人にとって、外資系企業は格好の機会を提供してくれる。自分自身の能力開発の主人公に なることが、外資系企業で成功する必要条件である。

 

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール