企業競争力の向上と経営者の役割(下)

4.深層の競争力強化策と経営者の責務


深層の競争力とは…

 深層の競争力とは、表に現れた競争力を実現するために組織内部に蓄えられているノウハウや仕組みである。これは、外から見え にくいために、その会社で働いている従業員も認識できないことがあるという性質を持っている。しかも、この競争力を高めるにはある程度の時間がかかる。今 日実施すると、明日には効果が出るというものではない。ただ、深層の競争力の重要性は、その企業がどのようなタイプの製品・サービスを作り出しているかで 変わってくる。

 ものづくりの世界では、生産方法のタイプとして、インテグラル型とモジュール型の二つがあると言われている。インテグラル型のものづくりとは、企 業内部で技術、技能、ノウハウの蓄積を行い、それを基盤として製品・サービスを作り出すタイプであり、自動車産業が典型例である。他方、モジュール型のも のづくりは、製品・サービスの性能実現にとって最も適切な部品を他の企業から購入し、企業内部で組み立ててモノをつくりあげていくタイプであり、典型的な のはパソコン製造である。

 ものづくりだけでなく、サービスの分野でもこのような二つのタイプを見ることができる。例えば、高級ホテルとビジネスホテル である。高級ホテルでは、一定の固定客を大切にする傾向が強く、従業員はそれらの顧客の好みやクセを頭に入れて、きめ細かいサービスを提供しようとする。 他方、「一見のお客さん」が多いビジネスホテルでは、価格とスピードが重視されるため、長期でそのホテルに勤める人がいなければ成り立たないようなサービ スは提供していない。前者はインテグラル型であり、後者がモジュール型だと言える。

 

経営者の責務

 経営者として、まず見極めるべきは、深層の競争力の内容である。インテグラル型のものづくりやサービス提供をしている企業な らば、長期雇用や組織内にノウハウが蓄積されるような仕組みを大切にする必要があるし、モジュール型なら、外部の要素を効率よく組み合わせられる人材を登 用し、スピード重視の経営スタイルを研ぎすますことが求められる。もちろん、純粋にどちらかのタイプに分類される企業はほとんどない。大半の企業は、これ ら二つの組み合わせで成り立っている。しかし、どちらの要素がより強いかは自ずと決まってくるはずである。この見極めを誤ると、表層の競争力を高めるため に採った施策が深層の競争力を傷つけてしまい、中長期での企業の競争力を弱めることになりかねない。

 今期の利益をあげるのは経営者の大切な責務だが、中長期の企業競争力を高めることも、それと同じくらいの重みを持っている。短期の課題と中長期の課題をどうバランスさせて企業を経営していくかは、まさに経営者としての見識と力量が問われるところである。

 

【参考文献】
石山順也[1987]『アサヒビールの挑戦〈ドキュメント〉快進撃への軌跡』日本能率協会
永井隆[2004]『ビール15年戦争―すべてはドライから始まった』日経ビジネス人文庫
藤本隆宏[2003]『能力構築競争』中公新書

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール