制度ユーザーの声を大切にした人事制度改革を考える(下)

成果主義の問題点は職場実態を無視しすぎたこと


 大きな期待とともに導入された「成果主義」であるが、実際に運用していく中でさまざまな問題が発生した。「そもそも成果とは何か」という点に始まって、 成果の測り方、成果と処遇の結び付け方、成果の前提となる仕事の配分方法など、次から次へと問題が噴出している。「成果主義」に対する疑問や批判は、すで に多く発表されているので、ここで細かく論じることはしないが、筆者は、職場の実態を考慮することなく、論理的に正しいと思われる仕組みを実施しようとし たことが最大の問題点だったと考えている。


 人事制度は、経営者の意図を実現するための道具である。人事制度改革の際、経営側から次のような説明がなされる。「わが社をこういう会社にしたい。その ためには、このようなことができる人材が必要だ。だから、このような制度改革を実施した。従業員は、強い会社の構築をめざして、ともに努力してほしい。」 人事制度は、経営者から従業員に対するメッセージである。必要とされる人材像について、具体的かつ明確に示されなければならない。ただ、わかりやすければ それでいいかというと、そうでもない。自分たちの現状とあまりにもかけ離れていたり、職場で日々大切にしていることに反していたりすると、自分たちの目標 として共感することができず、絵に描いた餅に終わってしまう。ここ10年の間に導入された「成果主義」の多くは、従業員が大切にしてきたことを無視したた めに画餅になったと筆者は考えている。


 人事部が制度改革を実施する際、労働組合とは話し合うが、第一線の管理職の考えを聞くことはほとんどない。人事制度を作るのは人事部だが、それを実際に 使って職場を管理するのは、第一線のマネジャーたちである。彼らは、人事制度のユーザーである。商品開発をする際、ユーザーの声を聞くのは常識であるにも かかわらず、人事の世界ではユーザーが顧みられることはあまりない。「現場の管理職の言い分を聞いていたら大胆な制度改革はできない」というのがユーザー 軽視の理由であるが、実はここからボタンの掛け違いが発生するのである。


 ある大手化学品メーカーA社の人事担当者が次のような話をしてくれた。彼は、本社の人事課長として制度改革の陣頭指揮に当たり、成果をより重視した人事 制度の導入に尽力した。制度改革の後、研究所の人事部に異動になり、自分が作った制度の運用を経験することになった。そこで、制度の使いにくさに初めて気 がついたという。A社の新しい人事制度は、メリハリのきいた処遇をするために、評価に差をつけることを要求していた。5段階で最も上と二番目の評価を一定 割合出すことを求め、下二つの評価ランクもしっかり使うように指導がなされていた。しかし、研究所において、5段階を目一杯使った評価がいかに現場実態と 大きく離れているかに気づかされることになった。研究員たちは、大半が平均的な働きぶりを示しており、無理やり高い評価や低い評価をつけることには納得性 がないというのである。彼は、この実態を尊重し、本社の人事部にかけあって、評価制度の運用において研究所を例外扱いしてくれるよう頼んだという。

 各職場には、その職場の生産性を上げるために大切にされていることがある。それは、第一線の管理職に話を聞かないとわからな い。「人事部は成果・業績を上げた人を高く評価しろと言うけれど、私はチームワークを考えて、成果・業績は平均的だけれども職場を活性化させる役割を果た している人を高く評価したいし、実際にそうしている。」「この職場では、成果が出るのに1年以上かかるし、成果自体が見えにくい。だから、部下の行動を しっかり観察して評価するようにしている。人事部が作った制度は、職場実態に合わせて適当に運用している。」人事担当者が職場に行ってマネジャーと話をす れば、このような話は次から対へと出てくるはずである。ユーザーは、作り手の意図を無視したような使い方をすることがしばしばある。そこでユーザーを責め ても問題の解決にはならない。ユーザーが使いやすいように製品を手直しするしかない。

 確かに、人事制度は、経営者の意図を反映させて作られなければならない。しかし、同時に、制度を使う人たちの思いも大切にす る必要がある。経営者と現場の間に挟まれて苦労するのが、人事部の仕事である。ギリギリのところで両者のバランスをとるのが、人事担当者のウデの見せ所で ある。いま人事制度改革に取り組んでおられる方々、これから取り組もうとされている方々は、是非、第一線の管理職の声を聞いていただきたい。みなさんが気 づいていない、深いところで貴社の競争力を支えている部分が見えてくるはずである。人事制度改革の要諦は、コンサルティング会社ではなく貴社の現場にある ことを強調しておきたい。

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール