M&Aと労働組合(2) 企業価値と労働組合

1.企業価値とは
 M&Aにおいては、企業価値がどれだけかが重要な指標となります。ある会社を買収しようとしたとき、その企業にはど れくらいの価値があるかを知る必要があります。通常は、①財務予測をもとに将来の収益を予測し、②それを資本コストで割り引いて現在価値を求め、③事業外 資産(遊休資産)の処分価値を見積もって加算し、④有利子負債を控除することによって求められます。要は、その企業が将来にわたってどれくらいの利益を稼 ぎ出すかを一定の条件を置いて計算するわけです。こうして求められた金額が株式の時価総額(発行済み株式総数に一株当たりの価格をかけて求められた金額) よりも高いとき、その企業は「お買い得」となります。

日本には、このような企業がたくさんあると言われています。時価総額が企業の本当の価値を下回っていると、M&Aの対象になりやすくなりま す。三角合併が解禁となったいま、海外からの攻勢が強まることが予想されます。それに対抗するため、各企業は買収防衛策を用意するとともに、企業価値を上 げて株価を高め、買収しにくくしようと努力しています。

2.企業価値を高めるもの

 では、どのようにしたら企業価値が高まるでしょうか。企業価値は、その企業がどれだけの付加価値を生み出せるかで決まりま す。付加価値は、通常、外部から購入した財・サービスの総額とその企業が作りだして外部に販売した売上高の差によって表現されます。外部から購入した財・ サービスに手を加えるのは、その企業で働く従業員です。どんなに高い設備を用意しても、それを使って財・サービスを生み出してくれる従業員がいなければ、 企業は付加価値を作り出すことができません。高価なコンピュータを何十台そろえても、それを使いこなせる従業員がいなければ宝の持ち腐れになります。「企 業は人なり」と言われますが、価値を生み出す源泉を的確に言い当てた言葉だと思います。

 企業価値を高めるのが従業員であることに気がつけば、従業員に気持ちよく働いてもらうことの重要性が見えてきます。従業員は さまざまな能力を持っていますが、人間は感情を持った存在なので、気分が乗るときと乗らないときで結果に差が出ます。誰と一緒に働くかも、生産性に影響を 与えます。従業員の能力を企業の活動目的実現のために結集するには、働きやすい組織を作る必要があります。

3.労働組合の役割

 労働組合は、組合員の不満を解決し、働きやすい職場を作る上で大切な役割を果たしています。アメリカの研究を見ても、労働組 合は、職場で発生する問題を解決するルートになっているため、離職率を下げる効果があるとされています。労働組合があることで、従業員が気持ちよく働くこ とができるわけですから、労組は企業価値の向上に貢献していることになります。

 ある企業が買収攻勢の対象になったとき、その企業に労働組合があれば、従業員としてその買収に賛成するか反対するかの意思表 示をすることができます。もし、労組が「反対」を表明した場合、買収後に従業員の協力が得られない可能性が出てきます。従業員を組織している労組があれ ば、買収を仕掛ける企業は労組と友好関係を保とうとするはずです。労働組合は、M&Aに対して事前に対応策を立てることはできませんが、 M&Aが現実に実施される局面では、一定の影響力を発揮することができると言えます。

【電機連合メールマガジン2007年6月】

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール