M&Aと労働組合(3) 従業員の不安を解消する

M&Aのときに従業員が持つ不安
 M&Aのとき、従業員は不安になります。自分の雇用の場は確保されるだろうか、昇進の機会が狭まるのではないだろう か、自分が描いてきたキャリアを実現できるだろうか…といったさまざまな心配が従業員の間を駆けめぐります。特に、買収される側の企業に勤めている人たち や、対等合併と言われていても弱い立場の企業に勤めている人たちは、より大きな不安を持つことになります。

 企業買収の目的には、(ア)短期的に売上や利益を急速に伸ばすこと、(イ)スケールメリットを活かしてコストを削減すること、(ウ)買収先の企業 が持っているブランドを手に入れることによって新規分野での成功確率を上げることがあると言われています。企業が売上を計上できるのは、その企業の製品を 開発し、製造し、販売してくれる従業員がいるからです。あるいは、高品質の製品が比較的安いコストで提供できるのは、それを実現する仕組みが企業内にでき あがっているからであり、それを支える従業員がいるからです。ブランドは、その商品の価値を顧客が認め、納得して購入して下さるからこそ成立します。その ような価値の高い商品を作り、顧客に紹介するとともに、よりよい商品を開発するのも従業員の力です。

 ある企業を買収したときに最も困るのは、その企業の優秀な従業員が辞めてしまうことです。合併後に誕生する会社で自分の将来 に希望を見いだせない人は、他社で活躍する場を求めて転職します。優秀な人ほど転職先をみつけやすいのは当然です。その結果、従業員の不安の解消に失敗し たままでM&Aを進めると、優秀な従業員が抜けてしまった企業を買うことになりかねません。

不安解消の方法

 では、従業員の不安はどうしたら解消できるでしょうか。一言で言えば、正確な情報を伝えることです。会社側は、さまざまな ルートを使って従業員に情報提供します。しかし、従業員側から見ると、都合の悪い情報も含めて本当に全部開示してくれているのだろうかという疑問が残りま す。そのようなときに、労働組合が果たす役割がとても重要になります。

 M&Aの際に従業員が持つ不安をていねいに拾い上げ、一つ一つを経営側にぶつけ、回答や見解を引き出し、それを従業 員にフィードバックする―労働組合は、このような活動ができる組織です。会社側が提供する情報と労組が収集した情報を対比していけば、従業員はより正確な 情報を手に入れることができます。良い情報はもちろん不安を解消しますが、従業員にとって都合の悪い情報も、早めに知ることで対処の方法を考えることがで きます。

 M&Aは、いろいろな意味で従業員のキャリア開発に影響を与えます。能力開発の幅が広がる人もいれば、逆に狭くなっ てしまう人もいます。特に、狭くなってしまう可能性の高い人に対して、労働組合はきめ細かい対策を講じる必要があります。キャリアカウンセリングの場を用 意して一緒に考えるとか、会社側に申し入れてキャリア開発の機会を増やすとか、従業員個人では対処が難しい問題を解決していくことが求められています。

 苦しいときに助けてくれる友人が本当の友人だと言われます。労働組合は、従業員にとって、苦しいときにこそ助けてくれる友人でなければなりません。

【電機連合メールマガジン2007年7月】

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール