M&Aと労働組合(5) 外国資本とのつきあい方――肉を切らせて骨を切るくらいの覚悟が必要

 一口に外資というが、経営に対する考え方は多様である。一般的に言って、アメリカ系とヨーロッパ系では、企業経営に対する考え方が相当異なっている。


 通常、アメリカ資本は短期志向だと言われる。アメリカ資本の経営者として乗り込んでくる人物は、できれば当年、遅くとも2~3年以内に黒字にすることを 求められている。したがって、不採算部門は大胆に切り捨てて他社に売却し、採算部門だけ残そうとする。当然のことながら従業員の雇用に大きな影響が出てく る。

 また、労働組合に対する見方も厳しい場合が多い。それは、アメリカの労働組合を前提として日本の労働組合を見ようとするから である。アメリカの労働組合は、経営側と正面から対立するのが一般的である。数あるアメリカの労働組合の中には、労使協調を掲げているところもあるが、例 外である。労使の間には不信感が渦巻き、日本の企業で普通に行われている労使協議が成立するような雰囲気はない。労働組合とは経営側に敵対する勢力である というのが、アメリカ本国から派遣されてくる経営者が持っている認識である。そのような経営者と信頼関係を築くのは容易ではない。


 ただし、日本の労組と組んだ方がいろいろなことがうまくいくことに経営者が気づけば、意外と話のわかる人になることが多い。例えば、マツダは早い時期に フォードの傘下に入り、フォード本社から社長や役員が派遣されてきた。彼らは、日本の労使関係が持つ特性をよく理解し、労組の協力を取り付けるために頻繁 に話し合いの機会を持ったという。偏見にとらわれた人ならまだしも、冷静に状況を判断できる人であれば、日本企業では労組との協調関係を大切にした方が得 になることはすぐにわかるであろう。

 他方、ヨーロッパ系の資本は、アメリカ系資本ほど性急ではないと言われる。長期の視点で経営を見るのがヨーロッパ流であり、 その点はわが国の経営と共通点が多い。ただし、「ヨーロッパ」とひとくくりにできない部分もある点には注意が必要だ。例えば、フランスは中央集権の国であ り、一部のエリート層が実権を持ってリーダーシップを発揮することを是とする考え方が強い。他方、ドイツは分権国家であり、製造現場のマイスターを大事に する国である。エリート層のリーダーシップはもちろんあるが、現場に近い人たちの考え方や意見も重視しようとする。その他、スカンジナビア諸国やイタリア にもそれぞれの国の気質があって、経営のスタイルに反映されている。

 国が違ったとしても外資に共通して見られる点がある。それは、派遣された経営者が見ているのは本社だという事実である。派遣 されてくる経営者たちは、ほぼ例外なく、日本に骨を埋めようとは思っていない。日本でのM&Aを成功させて本社に認められ、もっと上位のポストに就くこと をねらっている。いちばん気になるのは、本社の社長が自分のことをどう見ているかであり、自分の業績を高く評価してくれているかどうかである。


 労働組合は、この点を逆手にとることが可能である。本国の社長に認められたいのなら、労使関係上で問題を起こして生産性が下がることは避けた方がいい。 経営の再編は必要だとしても、うまい方法をとらないと、社長本人の経歴に傷がつきかねない。「そのような事態を回避して、本社から認められるようにするに はこういう方法がいいのではないか」という提案を労組がする。これは高度な交渉術である。

 労組が絶対反対を貫くと双方の傷が深くなる。どこで折り合いをつけるか、落としどころを見据えた厳しい交渉が求められる。労 組側から見て、肉を切らせて骨を切る結果になればしめたものである。M&Aにおいて外資とわたりあうには、それくらいのしたたかさが求められていることを 労組のリーダーは肝に銘じていただきたい。


【電機連合メールマガジン2007年9月】

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール