即戦力の「即」の長さは?

 「即戦力が欲しい」という言葉をよく聞く。他社で実績を積んだ人を採用して、短い期間で業績を出してくれる人を企業は求めている。新卒者を採用すると、 訓練に時間とコストがかかり、一定の成果をあげるようになるまでに1年以上、場合によっては3年くらい待たなければならない。一定数の新卒者を採用して じっくり育てていくことが重要であることはわかっていても、この競争の厳しい時代にそんな悠長なことは言っていられないというのが企業のホンネだろう。


 では、即戦力の「即」とはどれくらいの時間を想定しているのだろうか。読者であるあなたは、「即」の長さをどうとらえておられるだろうか。


 ビジネス・パーソン相手に講演会を頼まれたとき、ときどき「即」の長さをたずねてみる。前提は、前職とほぼ同じ仕事を担当することである。営業であれば 営業、総務人事であれば総務人事を担当した場合、企業が期待する業績をあげるまでにどれくらいの期間待てるかという質問になる。答えは、「今日その日か ら」という人から「半年くらいは見たい」という人まで幅広い。

 営業系の人は、概して短気である。「今日から」とうのは少々極端だとしても、「1週間くらい」という答えが多い。営業系で1 カ月待てる人は、相当忍耐強いと言ってよい。他方、総務人事系になると待てる時間は長くなる。「1カ月」という人もいるが、最も多い答えは「3カ月くら い」である。

 では、なぜこのような差が出るのだろうか。営業の仕事は、短期間で結果が出る場合が多い。お得意先を一通り回って新しい担当 者の紹介が終わると、得意先からの反応が出てくる。「今回の担当者は話が明快だ」とか「新しい担当者は話題が豊富で、話していて楽しい」といった反応が出 てくれば成果が期待できる。それに対して、「あの人、大丈夫?」とか「何か的がはずれてるんじゃない?」といった声が聞こえてくると要注意である。

 総務人事系の仕事は、会社のしくみを覚えることから始まる。人事制度の考え方と実際の運用を知り、従業員の顔を覚え、幹部社 員の特徴を理解するには一定の時間が必要である。従業員の気持を扱うのが総務人事系なので、「すぐその日から」とはいかない。3カ月くらい時間をかけて社 内のことを知ってもらう余裕を持っていないと、総務人事系の中途採用はうまくいかない。

 即戦力採用といっても、職種によって待てる時間に差があることはご理解いただけたと思う。この点は、採用後の中途採用者との 接し方に応用できる。営業に対しては比較的短期間で結果を求めてもいいが、総務人事系の中途採用者に1カ月くらいで結果を求めることには無理がある。もち ろん、営業系の仕事の中には、業界特性についての理解や商品知識を蓄えるのに時間がかかる場合もあるだろう。ここでの期間は、一つの目安としてお使いいた だきたい。

 この情報は、試用期間の長さを決める指標にもなる。企業側は、試用期間をできるだけ長く取りたいと考えるが、雇われる側は短 ければ短いほどよいと思っている。新卒の試用期間は3カ月が一般的だが、中途採用の場合はバラバラである。「即」の時間の長さから考えると、営業系は1カ 月、総務人事系は3カ月というのが適切ではないだろうか。中途採用期間中の給与を8割程度に抑え、本採用になったら減額していた2割分を追加して支給する という契約もあり得る。中途採用者に何を求めているのかを見極めて、個別に対応することが重要である。

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
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