検証日本企業の人事 第2回 スローガンの具体化を

 会社の中では、さまざまなスローガンが飛び交っている。「風通しのいい組織にしよう」「創造的な仕事をしよう」など、毎日のように新しい表現が出てくる。中には、昔から繰り返し出てくるものも多い。

 風通しのいい組織とは、構成員が節度を持ちながら言いたいことが言える組織である。では、このような組織は、どうすれば実現できるのだろうか。

 何よりも大切なのは、職場の管理職が部下の発言を否定しないことである。「何かおかしいと感じたら、遠慮せずに声をあげよ う」という表現を真に受けて、若手社員が自分の意見を言ったとする。それに対して、管理職が「事情がわかっていない若手がそんなことを言うもんじゃない」 と反応する。すると、もう誰も何も言わなくなる。

 仮に部下の発言が自分の考えていることと違った場合、管理職はその部下との対話を通して、意見の違いを埋めていく努力をしな ければならない。言葉を交わしているうちに、部下が間違いに気づくこともあるだろう。風通しのいい組織をつくるには、管理職が辛抱強く部下の話に耳を傾け ることが第一歩となる。

 「創造的な仕事」もよく出てくる表現である。斬新な発想で世の中にないものを生み出すことを社員は求められている。では、ど うすれば創造的な仕事ができるのだろうか。上司や先輩に聞いても、「自分で考えろ」という答えしか返ってこない。かくして、スローガンだけが虚しく踊り、 誰も創造的な仕事をしない状態にとどまることになる。
 

 創造的な仕事をするには、いつもとは違ったものを見たり、違った人と話をしたり、違った場所に自分を置いてみることが役に立 つ。非日常の出来事から刺激を受けた脳は、自分の中にまったく異なるものとして存在していた要素を結びつけて考えるとおもしろいことに気づく。そして、新 しい発想につながっていく。

 社員に創造的な仕事をして欲しいと思うのであれば、社員を積極的に会社の外に出すとよい。他社の人たちと議論するセミナーに参加させたり、見本市を見に行かせたりすることで、脳が活性化され、ひらめきが生まれる。

 スローガンは大切である。社員を一つの目標に向かわせるには、言葉の力を借りるのが有効だ。しかし、単なる言葉遊びに終わっ てしまっては意味がない。どういう状態を目指すのかを具体的に示し、その状態に到達するにはどのような行動をとるといいのかを社員がわかる言葉で表現しな ければならない。

 会社の中でスローガンを具体化する役割を担っているのは人事部である。風通しのいい組織にするために必要な管理職の行動を明 示し、そのような行動をとれる管理職を育てる。月に少なくとも一回は外部の会合に部下を送るように管理職を指導し、その実績をチェックする。このような地 道な努力の積み重ねが社員を元気にし、組織を強くする。目標とする状態を実現するために、最初の一歩をどう踏み出すかを具体的に指し示すことが人事部に求 められている。

(東京新聞夕刊連載「検証日本企業の人事」第2回 2008年7月8日掲載)

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール