検証日本企業の人事 第3回 ミーティングで情報共有

 1980年代まで、日本企業の職場はにぎやかだった。他社や他部署との情報交換に電話を使っていたので、職場のいたるところから話し声が聞こえた。机に 座っていれば、聞くとはなしに耳からさまざまな情報が入ってきた。フォーマルな会議で得た情報と小耳にはさんだ情報を組み合わせていけば、誰がどんな仕事 をしているのか、職場で何が問題になっているのかを容易に知ることができた。


 1990年代以降、電子メールが手軽に使えるようになり、情報交換がネット上で行われるようになった。その結果、電話口での話し声に代わって、キーボー ドをたたく音が職場に響くようになった。職場が静かになり、仕事に集中できるようになったのはプラスの側面である。しかし、以前であれば普通に伝わってい た情報が伝わりにくくなったという負の側面も出てきた。

 いま、多くの企業でコミュニケーションが問題になっている。伝えるべき情報が伝わらないとか、そばで働いている仲間が何に取 り組んでいるのか知らないといった声が聞かれる。仕事とは、本来、一人でするものではなく共同で成し遂げるものである。相互に連絡を取り合い、助け合って 完成させていくのが仕事である。しかし、各人が自分の課題だけに目を向け、職場の仲間がどういう状態にあるのかをあまり気にしなくなった。担当者間に発生 する「すき間の課題」に誰も注意を払わなくなった結果、仕事の質が落ち、競争力の低下を招いている。

 電子メールの普及によって職場が静かになり、情報共有がしにくくなったとき、人事部はそれを補うしくみを開発して、普及を図 るべきであった。第一線の管理職が職場運営をしやすくなるような道具をつくり、提供すべきであった。しかし、人事部は、職場支援に力を注ぐのではなく、人 件費の流動費化という名の人員削減に走り、管理職に大きな負荷をかけ、職場の力を弱くしてしまった。

 職場構成員が目標達成に向けて力を結集するには、この課題は何のためにあるのか、自分たちは何を目指して仕事をするのか、い つまでに完成させることが求められているのかといった点が共有されていなければならない。これを実現するには、朝礼などのミーティングが効果的である。古 典的な手法だが、みんなが一堂に会して、互いの顔を見ながら話し合うのがいちばんである。フレックスタイム制をとっている職場なら、お昼休み後に昼礼を行 うとよい。

 ただし、朝礼や昼礼を上司からの一方的な情報伝達で終わらせてはならない。現在の自分の課題や今日成し遂げようと思っている ことを、各人がみんなの前で話す。すると、誰が何に取り組んでいるのかが共有できるようになり、共同して取り組む雰囲気が生まれる。「忙しくて、そんな時 間を使っている余裕はない」という声が聞こえてきそうだが、毎日30分間のミーティングは、仲間同士の助け合いを促すため、労働時間は逆に短くなる。職場 の時間効率を高める鍵は、毎日の朝礼にあることを強調しておきたい。

(東京新聞夕刊連載「検証日本企業の人事」第3回 2008年7月22日掲載)

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール