検証日本企業の人事 第4回 使い勝手のよい「制度」を

 最近の第一線の管理職は、多くの課題を抱えて日々奮闘している。それは、あたかも陸上競技の走り高跳びで180㎝のバーを示されて「これを跳べ」と言わ れているような感じである。普通の人では跳べない高さだが、中にはとも簡単に跳び越えていく管理職がいる。すると、人事部は「あのようにすればいいんだ」 と言う。でも、跳べない。そこで、管理職は、バーの下をくぐって「跳んだふり」をする。部下たちは、管理職が跳んでいないことを見ているので、管理職に対 する信頼感が低下する。これは、評価制度の運用に悪影響を及ぼす。評価は、上司と部下の信頼関係の上に成り立つからである。


 180㎝のバーを示された管理職に対して、人事部はどのような支援ができるだろうか。私は、バーを下げることは支援にならないと考える。他社と熾烈な競 争を繰り広げている企業にとって、管理職にはそれだけの高さを跳んでもらわなければならないからだ。経営者は、より高い課題の達成を管理職に求め続ける。


 人事部の役割は、踏み台を用意することである。例えば、ある管理職にとって50㎝の高さになるような踏み台を用意すれば、残りは130㎝になり、これな ら跳べる。40㎝の踏み台で十分な人もいるだろう。人事部は、管理職の課題達成を助ける踏み台づくりに知恵を出す必要がある。

 では、踏み台とは何か。私は、人事制度をはじめとするさまざまな仕組みが踏み台に当たると考えている。「部下の評価をすると き、このしくみを使うと、評価結果への納得性が高まって職場の力が向上しますよ」とか、「職場のコミュニケーションを良くするには、この手法が有効です よ」といった形で管理職に提供される制度が、管理職の職場運営を助け、180㎝のバーを跳ぶことを可能にする。

 人事部が第一線の管理職に、使い勝手の悪い制度を押しつけると、踏み台になるどころか、踏み切る場所をさらに深く掘ることになる。これでは、誰もバーを跳べなくなってしまう。

 ここ十年の間に多くの企業で人事制度改革が行われ、評価制度が精緻になった。評価項目を細かく示し、各項目の評点を合計して 評価結果を出す形式がとられている。この評価シートを第一線の管理職はどのように使っているだろうか。中部産政研(トヨタグループ労連の研究所)が 2006年に実施した調査によると、項目ごとの評価を積み上げて出てきた結果と管理職自身が持っている全体的な評価(直感的な評価)の結果が異なった場 合、84.1%の管理職は自分の直感を優先すると回答した。評価項目を積み上げた結果と自らの直感が食い違った場合、評価者は、自分の直感が整合性を持つ ように評価項目の数値を書き換えている。これは、管理職に余計な作業をさせていることに他ならない。

 人事制度は、経営者の意図を反映させて作られなければならない。しかし、同時に、制度を使う人たちの思いも大切にする必要がある。経営者と現場の間に挟まれて苦労するのが、人事部の仕事である。


(東京新聞夕刊連載「検証日本企業の人事」第4回 2008年8月12日掲載)

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール