検証日本企業の人事 第5回 正社員が競争力の源泉

 派遣労働者を受け入れると、派遣会社に代金を支払う。この費用は、企業の会計処理上、人件費ではなく物件購入費や管理費に組み入れられていることを読者 はご存じだろうか。確かに、派遣労働は、人的サービスを他の企業から購入するという契約である。その限りにおいては、物件購入費であってもおかしくない。 しかし、ヒトに対して支払っている費用なのだから、人件費なのではないかという素朴な疑問がわく。


 筆者が企業の人事部を訪問したとき、最初に尋ねるのは従業員数である。本社の人事部で聞くと、正社員の数はわかるが、パートや契約社員といった非正社員 の数はわからない。非正社員の管理は、各事業所に任せているからだそうである。そこで、事業所に行って、その事業所の労働者数を質問する。すると、正社員 数と直接雇用の非正社員数はわかるが、派遣や請負な間接雇用の人数はわからないと言われる。派遣労働者や請負労働者を何人、どのタイミングで入れるかは各 部門に任せているので、事業所の人事担当はつかんでいないという。


 かくして、今日、この時点で、わが社にどんな人が何人働いているかを誰も把握していないという状況が生まれる。これは、大半の大企業の実態である。これで、本当に効率的な人事管理ができるのだろうかと心配になってくる。


 ある電機メーカーの労働組合が本社の人事部に、自社で働いている人の数を雇用関係にかかわりなく調べるように要求した。人事部もこの点に問題意識を持っ ていたので、各事業所の人事担当に調査を依頼して、間接雇用の人数も含めて集計した。すると、本社人事部が驚くくらいの数の派遣労働者や請負労働者が働い ているという実態が明らかになった。しかも、研究開発の重要な部分で派遣労働者が多用されており、自社の競争力の将来に不安を抱いたという。その結果、そ の会社は、正社員を積極的に雇用するようになった。

 サービス業に分類されるある会社で、人事部長が部下に命じて「本当の人件費」を調べさせた。会計上の費目に関係なく、広義の 人件費を計算した。すると、十年前とまったく変わらなかったそうだ。正社員数は半分になったので、見かけ上の人件費は大幅に減った。しかし、派遣労働者が 正社員を代替するように使われていたので、費用の面では何も変わっていなかったという。むしろ、派遣労働者が増えたことによって正社員の負担が増え、長時 間労働が常態化するという問題が発生していた。

 正社員の解雇が難しいために、数の調整のしやすさが派遣や請負を使うメリットだと考えられている。確かに、短期的には人件費 の削減になり、コスト競争力を高めるだろう。しかし、中長期の企業競争力を考えると、必ずしも得策とは言えない。新しい財やサービスを生み出したり、斬新 な仕組みを考え出したりすることによって出てくる競争力は、正社員によって担われているからである。人事部は.何が競争力の源泉かを見極め、それを強化す る人事施策を展開しなければならない。

(東京新聞夕刊連載「検証日本企業の人事」第5回 2008年8月26日掲載)

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
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