次世代グローバル経営人材育成のために

今の方式では経営者は育たない!


 第二次大戦後の日本企業の国際展開は、40年以上の歴史を重ねてきた。多国籍企業として、東南アジアを皮切りに世界中で事業を営んでいる日本企業であるが、世界的な視野で意思決定のできる経営者の不足が早い段階から指摘されてきた。

 日本企業の人材育成システムは、現場経験を大切にし、毎日のように現場で発生する変化や異常に的確に対処する能力を育成する 上で大きな実績を残してきた。その重要性は、今日においても何ら変わるものではない。この人材育成システムは、優秀な事業部長を育てる仕組みとして有効に 機能してきた。

 では、事業部長としての経験を積めば社長になることができるかというと、話は単純ではない。事業部長と取締役の間、取締役と 代表取締役の間には大きな段差があり、同一線上を駆け上がっていくというものではない。経営の一員である取締役には、企業全体を見ながら意思決定に参画す るという事業部長にはない能力が求められる。また、代表取締役には、社会の将来を予測しながら自社の道筋を決めるという中長期的な意思決定が求められてい る。現場のことだけ良く知っていれば務められる役目ではない。このことは、企業の意思決定の中枢を担う人材を育てるには、これまでの方式とは異なる特別な 仕組みが必要なことになる。残念ながら、多くの日本企業は、そのような仕組みを開発してこなかった。

 欧米先進国という「お手本」があり、それに追いつくことが目標であった時代には、課題を効率的に達成する経営管理者が求めら れた。しかし、日本の大企業が各分野でフロントランナーとなり、新たに道を切り開いていかなければならなくなっている現在、無から有を生み出す人材の育成 が急務である。これからの日本の大企業で必要とされているのは、大きく変化する環境の中で、10年以上先を見据え、世界のあり方を構想しながら日本の果た す役割を考えられる人物である。そして、その将来見通しの上に、自社の社会的役割を組み立て、目の前の問題を解決していける人物である。中長期の構想力と 短期の問題解決力の両方を持っている経営者を多数輩出していかないと、日本の将来は危うい。

 

ビジネススクールの責務

 各企業は、グローバルに活躍できる経営者の育成が急務であることに気づいており、さまざまな試みをしてきた。1990年代半 ば以降に始まった「人材の早期選抜・育成」はその一つである。一部のアメリカ企業で実施されている「ファースト・トラック」の考え方を取り入れ、20歳代 の終わりから将来の経営幹部層を選抜して特別プログラムを受けさせている。相当な資金と労力を注ぎ込んで実行されているプログラムであるが、その効果はま だ未知な部分が多い。

 また、ここ10年くらいの間に、人材育成部門を別会社化し、コーポレート・ユニバーシティとして広く人材育成に取り組む企業 も出てきている。コーポレート・ユニバーシティのプログラムの中には、経営幹部の育成を目的としたものも設置されており、効率的な人材育成を目指してい る。しかし、同じ企業に勤める人たちが受講生になるため、価値観のぶつかり合いがあまり起こらず、優等生的な答えを出して満足してしまうという問題が指摘 されている。

 人材育成において最も効果が高いのはOJTであるが、次世代のグローバル経営人材を育てるにはOJTだけでは不十分である。 まったく違う価値観や社会観を持った人たちと、同じ土俵で議論することによって、自分自身の考えが整理されたり、自らの力のなさを自覚したりする。外から の刺激を受けた脳は、これまでまったく異なったものとして自分の中に存在していたものを結びつけて考えるとおもしろい点に気づく。そして、それが「ひらめ き」を生み、イノベーションを起こしていく。

 しっかりとした世界観を持ち、社会のあり方を長期の視点で考えていく能力は、企業内では育成しにくい。企業の外に置かれてい るビジネススクールでたくさんのことを学び、他社で働いている人たちとの他流試合を経験して、自らを磨いていかなければならない。ビジネススクールは、企 業内教育訓練に不足している部分を補い、中長期の視点で企業を経営していける経営者の育成を可能にするプログラムを提供しなければならない。

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール