危機管理の本当の意味

 リスク管理というと、企業や政府といった組織に関係することであって個人には関係ないと思っている人が多いのではないだろうか。それは、間違いである。予期しない出来事に備えるのがリスク管理であるから、生命保険や損害保険に入るのは立派なリスク管理である。


 今年、イオンが郊外型の古くなったスーパーを80店舗くらい閉鎖する予定だという。企業として生き残っていくには、日本国内の不採算店舗を閉じて、より 儲かるところに新たに店舗展開していかざるをえない。イオンが進出したことによって、地元の商店街は大きな打撃を受け、「シャッター通り商店街」になって しまったところも多い。このような状態の町でイオンが閉店してしまうと、近辺で買い物をできる店がなくなってしまい、生活が不自由になるという不満が出さ れている。


 ここでイオンを批判するのは簡単である。「地元の商店街をつぶしておいて、儲からなくなると撤退するとはひどい」という主張である。確かに、地元の商店 よりも安い価格を提示して消費者をひきつけてきたのは事実である。しかし、イオンでしか買い物をしなくなったために地元の商店を存続できなくしたのは、他 でもない消費者である。


 リスク管理とは、起こるかもしれない不測の事態に備えることである。大型のスーパーだけに頼る購買行動は、リスクが大きい。そのスーパーが撤退すると、 ものを買える場所がなくなるからである。消費者としてのリスク管理とは、少し高くても地元の店で一定量の買い物をして商店を存続させることである。しか し、残念ながら、日本社会でそのようなリスク管理を教えてくれるところはなかった。本来は、家庭がそのような教育をする場であるはずだ。しかし、親たちは 「少しでも安く買える店」を求めて奔走する姿を子供たちに見せ、商店存続ために行動する姿を示してこなかった。


 私たちは、何か問題が起こるとそれを人のせいにしたがる。企業が悪いとか、政府が悪い、社会が悪いといって、他者を批判する。でも、それでは何の解決に もならない。問題の原因を冷静に見つめ、対策を自分の頭で考える必要がある。それがリスク管理の第一歩だと思う。


 イオンが撤退して近場で買い物ができなくなったことには、商店街が存続するように行動してこなかった消費者にも責任がある。だったら商店街を復活させる ようにすればいい。20㎞も30㎞も離れた隣町の大規模小売店に買い物に行くのではなく、地元の商店で買うようにすればいい。なくなったものを復活させる のは大変だ。しかし、商店は生活基盤の一部であり、快適な生活を送っていくために必要なものである。なくなったのなら、再構築するしかない。もし、まだ近 くに存続しているのなら、「高くても買う」という消費行動でそういったお店を支援していくことが必要である。


 リスク管理に高邁な理論など必要ない。ちょっと立ち止まって、自分の頭で考えればいいことである。私たちは、自分の頭で考えるトレーニングをもっと積まなければならない。

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
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