非正社員の削減と株式市場の関係

 雇用の縮小が止まらない。派遣社員や期間従業員といった非正社員の削減にとどまらず、正社員の雇用も減り始めた。連日の報道を見ていると、底なし沼に落ちていくような感じである。

企業は、売上が減ると、それに合わせて費用を削ろうとする。人件費も費用の一部だから、当然のことながら削減の対象となる。しかし、この企業行動が 問題を大きくしてしまう。雇用の場を失った人は、同時に購買力も失うので、ますますものが売れなくなる。ものが売れなくなると、企業はさらに雇用を減ら す。まさに、縮小の悪循環である。

 この悪循環の鎖を断ち切るには、日本経済の約六割を占める個人消費が盛り上がらなければならない。しかし、失業増加と賃金の停滞が個人消費をますます冷え込ませている。

 1980年代までの日本企業は、雇用を守ることに熱心だった。それは、一時的に需要が落ち込んだとしても、一年半から二年すれば再び需要が上向くと予想できたからである。次の需要拡大の波に乗るには、一定の余剰人員を抱えていた方が得になるという計算が働いていた。

 しかし、バブル崩壊後の不況がそれまでの常識を打ち砕いた。不況は長期化し、いつ需要拡大の波が来るのかわからなくなってしまった。ガマンして余剰人員を抱えるという行動は、合理的でなくなったのである。

 同時に、株式市場の制度変更も経営者の行動に影響を与えた。橋本政権下で始まったいわゆる金融ビッグバンは、わが国の株式市 場をアメリカ型に変えてきた。上場企業は、四半期ごとに業績を開示することを求められ、短期の業績向上が意思決定の基準になった。以前は、三~五年での利 益最大化を実現すればよかったのに、いまでは毎年の最大化を求められる。

 経営者がこれを怠ると、株主代表訴訟が待っている。「コストを下げて利益が出せたはずなのに、そういう行動を取らなかったのはけしからん。会社に与えた損害を賠償せよ」と株主から訴えられることになる。かくして、経営者は、一年単位の利益最大化に奔走するようになった。

 いま問題になっている非正社員の削減は、この文脈上で理解しなければならない。正社員の雇用保障にコストをかけることは、株 主に対して一定の申し開きが立つ。しかし、非正社員の雇用となると、訴訟リスクを負ってまで守るという気に経営者はなれないだろう。株式市場の制度変更に よる企業行動の変化が、今回の問題の根底にある点を見逃してはならない。

 では、私たちはどう行動すればいいのだろうか。一つ忘れてならない事実は、非正社員すべてが解雇されているのではない点であ る。雇用形態はパートや派遣だが、企業の中で重要な仕事を任されているために雇用は安定している人たちがいる。企業から必要とされる人材になることが最大 の雇用保障になる。

 もう一つは、日本企業の強みを育てる制度に変えていくことである。日本の競争力の源泉である「ものづくり」を強化するには、中長期の視点で経営する企業を応援する仕組みが必要である。アメリカ型ではなく、日本型の株式市場をつくることが政治に科せられた課題である。

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
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