確定拠出型年金制度は企業競争力を低下させる

 企業年金のリスクを負いたくないために、多くの企業が確定拠出型の制度を導入した。しかし、この制度は、企業の競争力にどのような効果を持っただろうか。筆者は、競争力低下の方向に働いているのではないかと危惧している。


 確定拠出型の企業年金は、従業員個人が運用に責任を負う。うまく運用できていればいいが、昨今のように株価が大きく下がると、運用成績はマイナスになっ てしまう。自分の資産が減少して幸せな気分になれる人はまずいないはずだ。普通は、気分が沈んでしまう。気分が沈んだ状態で仕事をしたときに生産性がどう なるかは、火を見るよりも明らかである。


 企業年金を確定給付型にするのか確定拠出型かするのかについて議論されていた頃、「日本人には投資教育が欠けている。そこが問題だ」と言われていた。投 資教育とは何か。ひと言でいれば、自分の資産をどう増やすかについてポートフォリオを組むことである。そこには、定期預金という比較的安全な運用方法だけ ではなく、株式などリスクの高い運用先も組み込まなければならないという内容が含まれていた。時に応じて、運用先を見直すことも大切だと言われた。


 では、運用先の見直しはいつするのだろうか。勤務時間中に会社のインターネットを使って運用先を組み替えると、懲戒の対象になる。私的なことに会社の資 産を使うことは、就業規則で禁じられているからである。そこで、休日に組み替えの注文を出すことになるが、労働日にはその結果が気になって仕事が手につか なくなるのではないだろうか。そわそわしながら仕事をすると、ミスにつながる。あまりいいことはないと考えられる。


 企業は、従業員に対して、能力を発揮して経営目標の達成に力を貸してほしいと期待している。しかし、確定拠出型の年金制度は、従業員が仕事に打ち込むこ とを邪魔する可能性がある。確かに、確定給付型の企業年金にはリスクがある。しかし、企業はリスクヘッジができる組織である。短期の運用がうまくいかない からといって、すぐに確定拠出型に切り替えるのはいかがなものだろうか。あまりにも近視眼的と言わざるをえない。

 企業は、従業員に余計な心配をさせず、仕事に打ち込む環境を作らなければならない。育児休業制度や介護休業制度といった従業 員の個人的事情に配慮する制度を設けるのは、従業員が企業を信頼し、帰属意識を持って力を出してほしいからである。片方でそのような仕組みを作りながら、 他方でそれを邪魔する制度を導入するとは、いったい何を考えているのだろうか。

 確定給付型の企業年金制度は、従業員との長期にわたる関係を前提として成り立つ。従業員にしてみれば、自分が退職したあとも 企業が繁栄してくれなければ、企業年金が受け取れなくなる危険性が出てくる。自分が勤務しているときだけ繁栄すればいいという短期志向ではなく、退職した 後も後輩たちが企業をもりたてていけるように種をまいておくという長期志向の行動をとるようになる。これは、企業経営にとってプラスの効果を生む。

 企業内の制度は、独立して存在するのではなく、相互に連携して機能している。一つの制度を変えると、他の制度の効果に影響が及ぶ。部分最適ではなく全体最適を達成できるような制度設計を常に考えなければならない。

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
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