3つの対話が労組の存在感を高める(1)

1.労組に求められる3つの対話

 20世紀の終わり頃から、労働組合の存在感は低下の一途をたどった。組織率は1975年以降年々低下して20%を切る水準になり、社会の中で労働組合は 何をしているのか見えなくなってきた。また、企業内においても、パートや契約社員などの非正規社員の組織化が進んでいないために、「従業員の多数を代表す る組織」ではないところも出てきている。経営側も人事施策に気をつかっているため、変な問題はあまり出てこない。そのような状況を見ていると、多くの従業 員が「労組なしでも困らないのではないか」と思うのもうなずける。


 しかし、2009年8月に行われた総選挙の結果、大きな変化が起こった。政権交代が実現し、労働組合が支援する民主党を中心とした連立政権ができあがっ たのである。相当数の労働組合役員出身者が国会や内閣の要職に就き、マスコミでも労働組合の影響力が取り上げられるようになっている。新聞や雑誌の論調の 中には、労働組合に対して批判的なものも少なくない。非正規雇用の人たちを組織してこなかったこと、組合費の使い方の不透明さ、なれ合いに見える労使関係 のあり方など、的を射ている主張もある。労働組合は、このような批判に真摯に耳を傾け、自らの行動を律していかなければならない。

 政権交代によって、日本社会は少しずつ変わろうとしている。しかし、社会の問題や企業内の課題は依然として多い。社会の中ではワーキングプアが増加し、 公的年金をはじめとした社会保険の信頼性にもほころびが見えている。職場の中では長時間労働やメンタルヘルスで問題を抱える人が増えているし、コミュニ ケーションがうまくとれないためにミスや事故につながるケースも少なくない。労働組合が取り組むべき課題は山積している。

 では、どうすれば労働組合はこれらの課題に対処することができるのだろうか。私は、現場との対話、経営との対話、社会との対話の3つが重要だと考えてい る。毛利元就の故事ではないが、1つの対話だけでは労組の存在感は高まらない。現場との対話と経営との対話に社会との対話を加えることによって、本来の労 働組合の役割を果たせるようになる。この小論では、2010年代に期待される労働組合の役割を整理してみたい。

 

2.現場との対話
職場に顔を見せなくなった労組役員

 現場は労働組合活動の原点である。組合員は、より良い製品・サービスの創造に向けて日々努力している。企業をとりまく環境は、毎日のように変化している ため、現場では常に新しい課題が発生している。現場を見ずして、労働組合活動を語ることはできない。

 しかし、最近の労組役員は、以前ほど頻繁に現場に行っていない。組合員の減少にともなって専従役員の数が減り、専従役員ひとり当たりの負荷が上がってい るため、担当する仕事量が増えていることが直接の原因である。一日中パソコンの前に座って文書を作り、メールで組合員に配信するという仕事に明け暮れてい る専従役員が多くなっている。

 でも、これで本当に労働組合活動をしていると言えるだろうか。意識調査などで組合員の声を聞くと、「労組を身近に感じることができない」とか「労組は何 をしているのかわからない」といった意見が出てくる。ふだんから労組役員が職場に顔を出し、何かと話題を提供していれば、このような意見は出てこないはず である。役員は、できるだけ頻繁に職場を訪れ、組合員に顔を見せ、組合員と対話する必要がある。

 労働組合活動の主要部分を担っているのは非専従役員である。自分の仕事を持ちながら労組役員としての役割を果たすことを求められるのだから決して楽では ない。以前は、労組活動に理解のある管理職が随所にいたため、仕事の負荷を少し減らしてくれたり、時間的な配慮をしてくれたりした。しかし、最近は、「仕 事の成果」を求められることが多くなり、管理職の配慮も少なくなっている。自らの給料は担当している仕事の成果で決まるのだから、何はさておいても仕事に 精を出さざるを得ない。しかも、仕事量は残業をしてようやく終わるくらい多い。結局、労組役員としての活動は後回しになってしまう。

 では、どうすればもっと職場に行くことができるだろうか。一つの工夫は、昼休みをうまく使うことである。昼休みが始まる少し前に職場を訪ね、仕事が一段 落している組合員に声をかける。場合によっては、昼食を一緒に食べに行って話をすることも一つの方法である。昼食から戻ってきた組合員をつかまえて、話す のもいいだろう。昼休みの時間をうまく時間を使って、一人でも多くの組合員と対話の機会を持つことが重要である。

 ただ、職場に行って、何を話したらいいのかわからないという若手役員も多い。そこで役に立つのが、現在担当している仕事について質問することである。あ まり会ったことのない役員から、いきなり「何か問題はないですか?」と聞かれても、「特にありません」という答えしか返ってこない。でも、「いま、どんな 仕事をしておられるのですか?」と聞かれれば、答えが返ってくる。担当している仕事のことを聞けば、会話のその中に職場の問題や気になっていることが少し ずつ出てくるはずである。

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール