3つの対話が労組の存在感を高める(4)

4.社会との対話 ― USRという考え方


 労働組合は社会 的に意味のある活動をする団体だからこそ、法律で活動が保護されている。もし、社会の発展に貢献するような活動をしないのならば、法律上の保護規定がなく なる可能性がある。労働組合には社会的な責任(USR; Union Social Responsibility)が課せられている。この観点から「社会との対話」をとらえてみたい。


 では、何が労働組合の社会的責任だろうか。私たちは、日本を住みやすい社会にするために活動することだと考える。具体的には、①政治の場に働く者の声を 反映させること、②ボランティア活動など地域社会の活動を組織したり参加したりすること、③正社員をもっと雇うように経営側に働きかけること、④労働組合 員を増やすことの4点をあげておきたい。

 社会の仕組みを決めるのは政治である。政権交代が実現したいま、労働組合の役割はますます重要になっている。政党は労働組合とは別の組織であり、独自の 考え方のもとに運営されている。労働組合は、その影響力を適正に行使して、民主党や政府が間違った道に進まないようにチェックしなければならない。

 政治と同時に大切にしなければならないのは、地域での活動である。労働組合は、昔からボランティア活動や地域社会の活動に熱心に取り組んできた。ボラン ティア活動は、それほど大げさなものではなく、「ちょっと手伝う」という感覚で取り組むとよい。地域住民とともに、できることから少しずつ変えていければ 労組の社会的な存在感が出てくる。足下からよくしていくことがUSR実践の近道である。

 わが国の企業の社会的責任(CSR)の中には「雇用責任」という考え方が入っている。従業員を人として尊重し、能力開発などに力を入れることもCSRの 一部である。これは、アメリカにはなく、ヨーロッパにはある考え方だと言われている。既存の従業員に対する雇用責任はもちろん重要だが、新たに人を雇い入 れることもCSRの大事な要素である。新規学卒者や未経験者を正社員として雇い、企業内でのOJTを通して一人前の職業人に育て上げていくのは、手間がか かるめんどうな事業である。しかし、日本社会の長期にわたる繁栄を実現するには、高い能力を発揮できる人材が日本社会の至るところで再生産されなければな らない。

 USRの4つ目は、組合員を増やすことである。労働組合の勢力を拡大するためではなく、企業や社会の中で発言するルートを持たない人たちを減らしていく ことが目的である。労使関係分野のこれまでの研究を見ると、経営者と従業員が話し合う場を持っている企業の方が外的なショックに強く、市場での競争力も高 い。もちろん、労働組合がなくても労使の話し合いの場を作ることは可能だが、労組という組織形態をとっていた方が法律上の保護もあって労使双方にメリット が多い。より質の高い企業経営を実現する上で、労組の果たしている役割は決して小さくないのである。

 労働組合は、様々な可能性を持った組織である。日本社会の財産であるという自覚を持ち、より住みやすい社会にするという使命を帯びている。持っている力を自覚し、役割をとらえ直すことで労組の存在感は高まっていくと考えられる。

 2010年代の10年間は、人口減少と急速な高齢化いう他国がほとんど経験したことのない現象に日本がどう対応していくのか を問われる期間になる。的確に対処すれば他国から尊敬され、国際社会における日本の地位は上がるだろう。もし、対応に失敗すれば、日本の存在感は小さくな り、国民生活に大きな悪影響が及ぶと予想される。2010年代は、いろいろな意味で正念場の10年になる。そのようなときに、労働組合が果たさなければな らない役割は大きい。一企業の労使関係だけにとらわれるのではなく、広く社会を見据え、3つの対話を実践することで、住みやすい日本社会の実現に貢献する ことを願ってやまない。

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール