(2)第1セッション:自分の強みを知る
この研修の事前課題として、働き始めてから起こった出来事を思い出してもらっている。筆者自身の約30年間の経歴を雛形として渡し、「こんな感じで思い 出してください」とお願いする。そして、現在の保有能力についてもまとめてくるように求める。丁寧に紙に書いてくる人もいれば、ほとんど何もしてこない人 もいる。人によって取り組み方が違うのは良くあることである。
第一セッションでは、3~4人のグループに分かれて、一人15~20分で次の点について話してもらう。①入社してからこれまでに経験してきたこと、 ②○○さんと一緒に働いたことがその後の自分の糧になっているとか、□□課長との出会いが職業人としての基礎を作ったといったこと、③働いていてよかった なと思ったこと、④仕事以外の経験(子供会の役員、PTAの役員、地域のボランティア活動など)、⑤自分の保有能力(自分で分析した結果)。仕事だけでな く、仕事以外のことも話すように求めているのは、各人の能力の多様性に気づいてもらいたいからである。
「一人の持ち時間は15分です」と言うと、「そんなに話すことはありません」という反応が返ってくる。「まあ、そうおっしゃらずに始めてみましょう」と 水を向けると、堰を切ったように話が始まる。15分はあっという間に過ぎてしまう。話すことによって、自分の中に深くしまい込まれていた経験が湧き上がっ てきて、止まらなくなるのである。これがグループで行う良い点だと言える。
ほぼ全員が勤続30年前後なので、顔見知りである。しかし、あらためて話を聴くと多くの発見がある。「あの人は、こんなことを考えて働いていたのか」と か「自分とは違う感覚の持ち主だと思っていたが、案外似ているところが多いな」という感想も聞かれた。
1時間のグループディスカッションが終わると、一人ずつに簡単なスピーチをお願いする。そのときの参加者数によって一人当たりの時間は前後するが、だいたい3分程度でまとめるよう求める。内容は次の3点である。
(ア)現在の仕事について簡単にご紹介ください。
(イ)事前課題として自分のこれまでの職業経験を振り返った結果、いま自分が持っていると思う能力をご紹介ください。
(ウ)グループの他のメンバーから「こういう能力もあるよ」と言ってもらったこと、話しながら自分で気づいたことをご紹介ください。
大半の参加者は、「自分には大した能力はありません」と話す。転職経験があればまだしも、同じ会社で約30年間働いてきて、一度も「何ができますか」と 聞かれたことのなかった人たちである。自分の能力を客観的に表現できないのは無理もない。そこで、筆者の質問が始まる。「国家資格はどんなものをお持ちで すか」「海外での技術指導のとき、どうやって現地の人とコミュニケーションをとりましたか」「異動を命じられたときどんな感じがしましたか」「異動後の新 しい職場には、どれくらいの期間で慣れることができましたか」等々。
このように質問すると、国家資格は10以上持っているとか、現地の言葉と英語を駆使しながら2年以上技術指導をしたという話が出てきたり、新しい職場に は比較的早く慣れることができるという回答が出てきたりする。筆者が「それも立派な能力ですよ」と言うと、怪訝そうな顔をしながらも納得してくれる。この スピーチが約1時間続いて、お昼休みになる。
投稿者プロフィール

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法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール
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