高齢者雇用には不断の能力開発が必要だ!(4)

(3)第2セッション:50歳代に求められる役割を考える


 第2セッションでは、50歳代が職場の中で果たすべき役割を考え、グループごとに発表資料を作成する。グループは第1セッションの時と同じである。A4 版の真っ白な紙を渡し、6色のサインペンを用意し、思い思いの発表資料に仕上げてもらう。この発表資料を書画カメラでスクリーンに投影する。議論と発表資 料の作成で1時間15分くらいとるようにした。


 女性が入っているグループの発表資料は、概してカラフルで、可愛い感じに仕上がる。他方、管理職たちのグループは図示したがる傾向が見られた。言葉の羅列という資料ももちろんある。グループの個性が出る部分だ。

 発表は、代表者が一人出てきて5分以内にまとめてもらう。全グループの発表が終わってから、全体の議論に入ることになる。共通して出てきている役割が大 半で、グループ独自のものは1割程度である。大事なポイントを一つ一つ取り上げながら、どんな議論をしたのかを聞き出し、全体の議論に持っていく。

 例えば、必ず出てくる役割として「後進の指導」がある。自分たちの経験を後輩に伝えるのは、50歳代の大事な役目である。この点は誰も異論がない。で は、どうやって伝えるのが良いのか。その点を質問する。具体的に職場で行っていることを話してもらうのだ。すると、微妙な違いが出てくる。この違いがおも しろい。なぜそのような手法を使っているのかについてさらに突っ込んでいくと、職場の特性が見えてくる。

 グループごとの議論と発表資料作成、そして発表とその後の議論で2時間半があっという間に過ぎる。

(4)第3セッション:これから自分が担う役割を考える

 第3セッションは、再び個人作業である。第2セッションで考えた50歳代に求められる役割のうち、自分はこれからどの役割を主として担っていくのかを決 め、みんなの前で発表する。この時、一人ひとりに対して短い励ましの言葉を贈るのが筆者の役割である。第1セッションで聞いた各人の経験と現在の仕事のメ モを見ながら、元気になるようなメッセージをその場で考える。ある意味、講師としてのウデの見せ所だとも言える。


(5)参加者の意識変化


 第3セッションの決意表明を聞いていると、参加者の意識が研修前と後で変化しているのを感じ取ることができる。例えば、このような感想を述べてくれた参加者がいた。

  「自分は、これまで、50歳代になったら、定年までの10年間を適当に流していけばいいと思っていました。30数年の経験がありますから、50歳以降はそ の経験を組み合わせて使っていけば乗り切れるだろうと思っていました。でも、今日一日、みんなと議論しながら考えが変わりました。60歳で終わるのではな く、65歳まで働き続けることを前提に考えると、自分の前にはまだ15年という時間があります。これは、これまで働いてきた年数の半分がまだ自分の前にあ るということです。それだけの時間があるのだったら、新しいことの二つや三つはできるのではないかと思えるようになりました。これからも新しいことに挑戦 していきたいと思います。」

 この節の初めに、50歳時点でそれまでの職業経験を振り返ることが重要であると述べた。65歳から70歳まで働くことを前提にすると、まだ15~20年 の時間が残されている。この時間をどう使うかという視点に立てば、五十の手習いとか年寄りの冷や水などと言っていられないという気持ちになる。不断の能力 開発を実践することでしか、この時間を乗り切ることはできないのである。

 では、50歳以降の能力開発はどのように行われるのが良いのか。この点が次の最終節の課題である。

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール