5.50歳からの能力開発
50歳からの能力開発に有効な手段は二つある。一つは、新しいものに挑戦し続けることであり、他の一つは、頼まれたことは何でも引き受けることである。
(1)新しいものに挑戦し続けること
毎日のように新しい技術や製品が登場する。年齢が上になればなるほど、使い慣れたものがいちばんで、新しいものに挑戦しようとする意欲が薄れてくる。し かし、それでは60歳を超えて現役でいることは難しい。その一つの例が、いわゆる団塊の世代とコンピュータの関係である。彼らは60歳代前半になっている が、彼らの中には何の問題もなくコンピュータを使いこなせる人と、キーボードは苦手という人が歴然と分かれている。
コンピュータが日本企業に普通に入り始めたのは1990年代になってからである。最初は、職場に1台だけとか数人で1台を共有する状態だった。その頃、 団塊の世代は40歳代半ばになろうとしていた。高価な機械をさわって壊してしまっては申し訳ないというのを言い訳にして、若手に操作を任せ、自分で使いこ なそうとはしない人たちがいた。逆に、新しい技術をおもしろがり、若手を押しのけてでも操作を勉強しようとした人たちもいた。
それから約20年が経過しようとしているが、この二つのグループで任される仕事に大きな差が出ている。いまやコンピュータは筆記用具と同じである。コン ピュータが使えないというのは字が書けないというのに等しいくらいのハンディである。60歳以降の継続雇用に入るとき、普通に読み書きができる人(コン ピュータを使える人)とできない人(使えない人)の間で差ができてしまうのは、どうしようもない事実である。
技術は日進月歩である。新しい技術は、積み重ねの上に花開く。常に新しいものに触れていれば、その落差はさほど大きくない。しかも、新しい技術は、使い やすさの面でも進歩する。新しいものを億劫がるのではなく、興味を持って接していけば必ず使いこなせるようになる。好奇心を持つと表現してもいいだろう。 探求心を持ち続けることが50歳以降の能力開発には欠かせない条件である。
(2)頼まれたことは何でも引き受けること
職場では、日々さまざまな問題が発生している。誰かが対処しなければならないが、誰の担当か定かではない案件も多々ある。そんなとき、上司や同僚から 「○○さん、これを処理してくれませんか」と頼まれたとする。そんなとき、「これはチャンスだ」ととらえて、ホイホイ引き受けるのである。一般的に、50 歳代になると腰が重くなる。何か頼まれたときに、できない理由から答えてしまう人が多い。しかし、それでは仲間から信頼される人物にはなれない。
私たちが何か頼みたいことがあるとき、誰に頼めばいいかを考えて依頼する。頼まれるということは、まだ見込みがある証拠だ。だったら、頼まれたことは何 でも引き受けた方がいい。できるかできないかは、引き受けてから考える。もし、自分の手に余るような案件であれば、長年の経験から培ってきた人脈を駆使し て、できる人を探し、その人の手を借りて完成させればいい。
仲間からの依頼に対応することは、とりもなおさず能力開発の機会を自ら取りにいくことになる。先に述べた新しいことに挑戦する姿勢にもつながる。職場 は、能力開発の機会に溢れている。それをうまく使うのか見過ごしてしまうのかは、私たち自身の問題である。
企業は、50歳を過ぎた従業員の能力開発にお金を使わなくなる。企業が提供する訓練に頼っていたのでは、60歳を過ぎても第一線で活躍できる能力を維持 するのは難しい。身近な機会をうまくとらえて自分の能力を磨くことは、誰にでもできる有効な方法なのである。
投稿者プロフィール

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法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール
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