3.従業員満足を高めるには
(1)現状を知る方法
従業員満足を高めるには、まず現状がどうなっているのかを把握しなければならない。現状把握には大きく分けて2つの方法がある。一つは、従業員意識調査であり、他の一つは、従業員との対話である。
①従業員意識調査
従業員が何を考え、何に問題を感じているかを明らかにするために、従業員意識調査が使われる。この調査には、アンケート方式で行うものとインタビュー形 式で行うものがある。前者は、外部の専門家ではなく企業内の部署が実施主体になることも可能だが、後者は、外部の専門家に任せるのが一般的である。
従業員意識調査において最も気をつけなければならない点は、回答者が本当の気持ちを表明しやすくすることである。アンケートであれば無記名で行う、インタビュー形式であれば、誰がその意見を述べたかが明確にならない形でまとめる必要がある1)。
従業員満足の水準を知るために意識調査を使う場合、従業員のホンネをいかに引き出すかが最大の留意点になる。アンケート方式であれば、選択肢の表現や並 べ方にも配慮しなければならない。外部の専門家は、他社で実施したことのある調査票を複数持っており、その中からアンケートに盛り込む項目を選択すること を求めてくる。そのとき、丸投げしてはならない。選択肢の表現を細かくチェックし、わが社の従業員がそれぞれの言葉をどう理解して回答するかを検討する必 要がある。これを怠ると、無回答がたくさん出たり、「その他」という選択肢に多くの○がついたりして、ホンネを知るという目的を達成できなくなってしまう からである。
インタビュー形式で実施する場合、インタビュー担当者との入念な打ち合わせが欠かせない。わが社の従業員の特性を理解してもらい、ふだんどのような言葉を使っているか、特殊な社内表現は何かを伝えておく必要がある。
インタビュー形式の場合、従業員がホンネを話しても大丈夫だと思うには数回かかることを覚悟しておいた方がいい。毎回同じ人がインタビューに来ると、従 業員も慣れてきて「この人になら話しても大丈夫だ」と考えるようになる。従業員100名程度のある不動産会社では、5年前からインタビュー形式で従業員の ホンネを引き出すようにしている。毎年決まった人にインタビューを依頼しており、その人と従業員との信頼関係ができてきたので、相当突っ込んだことも聞け るようになったという。
アンケートでもインタビューでも、調査を行ったあとの対応が重要である。調査することによって、現在の問題が改善されることを従業員は期待している。調 査結果の概要を従業員に知らせるとともに、そこで明らかになった問題をどう解決するかについても併せて知らせる必要がある。これを怠っていると、調査に対 する従業員の信頼を失い、次回以降、ホンネを引き出しづらくなる。調査後の対応は、調査実施前の準備とともに重要であることを強調しておきたい。
②従業員との対話
経営者が従業員と直接語ることも、現状を把握するために有効な方法である。その際に問題となるのは、どうやって話しやすい雰囲気をつくるかである。ふだ ん経営者と話をしたことのない従業員に、いきなり、「最近、何か問題に感じていることはありませんか?」と尋ねても、ホンネの答えは返ってこない。当たり 障りのない話でお茶を濁すのが関の山である。
では、経営者が従業員と話しても意味がないかというと、決してそうではない。何を話しても大丈夫という信頼関係ができあがれば、意識調査では知ることのできない従業員の本当の気持ちに迫ることができるからである。
従業員との対話において最も大切なのは、経営者の聴く姿勢である。(ア)何を言われても言い訳しない、(イ)否定的な反応は見せない、(ウ)しっかり相 づちを打つ、(エ)「もっと何かないかな」と水を向ける、(オ)「話してくれてありがとう」という気持ちを表現する―まずはこれら5点を実践することであ る。
そして、最初の数回を特に慎重に実施することも重要である。従業員は、自分の順番が回ってくる前に、すでに経営者との対話を終えた人から情報を得ようとす る。そのとき、「しっかり話を聴いてくれたよ」「経営者は、案外、話のわかる人だよ」と言ってもらえれば、その後の対話がやりやすくなる。
従業員との対話は、一度で終わるものではない。何度でも繰り返し会うことが大切である。一回会っただけで全部わかったなどと思ってはいけない。一枚一 枚、薄皮をはがすように根気よく続けることでしか、従業員のホンネに迫ることはできない。経営者である限り、従業員との対話はずっと続くのである。
(注)
1)労働組合がある場合、労組が行う組合員意識調査の結果が企業側にも参考になる。場合によっては、会社側が実施する意識調査よりもよりホンネに近い結果 が出ることがある。本文中では無記名で行うのが一般的だと述べたが、労働組合が行う場合は記名式も可能である。
例えば、味の素労働組合は2002年から記名式のアンケート調査を年1回の割合で実施している。社内のイントラネットを使って回答する方式で、誰が答え たかがわかるようになっている。実施前は、記名式にするか無記名で行うかを組織内部で相当議論したそうである。無記名にした場合の利点は、ホンネを出しや すいことである。しかし、自由記入欄等に「いま私の職場でこんな問題が起こっています」と書かれても、労組として対応ができない。記名式にした場合、ホン ネを言ってくれないかもしれないという懸念はあるものの、労組役員との信頼感に期待して記名式で行うことを決めた。その結果、職場の具体的な問題が浮かび 上がるような結果が出ているそうである。
投稿者プロフィール

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法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール
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