顧客満足と従業員満足は車の両輪(4)

(2)従業員満足を高める方法


 前述の方法で従業員のホンネがある程度つかめたら、次は具体的な対策を打つことである。その際、第2節で整理した従業員満足を構成する7つの要素が参考 になる。ただ、これら7要素は独立して存在するのではない。相互に絡み合って従業員満足に影響を与えている。そこで、仕事基盤の4要素を中心に施策を考 え、適宜、人間関係基盤3要素と関連づけておきたい。


①仕事自体の意義を実際に見せる

 従業員に仕事の意義をわかってもらうには、自分たちが提供している財やサービスがどのように使われているかを示すとよい。従業員20数名の金属加工会社 では、自分たちが作った部品がどこに使われているかを実際に見に行っている。この会社は、外洋航路の大型船に搭載するエンジンの一部を生産している。自分 たちが日々作るものだけ見ていると、仕事の意義を見失いそうになる。そんなとき、部品を納入している会社にお願いして、建造途中の大型船を見せてもらう。 自分たちが作った部品がそこに組み込まれているのを見ると、仕事の意義を再確認できるという。

 これは仕事の一環であり、社長自らが先導して勤務時間中に実施している。「そんなことをするのは時間の無駄だ」などと言ってはいけない。仕事の意義がわ からないまま働くことによるマイナスを考えれば、半日かけて納入先に見学に行く時間など大したコストではない。まさに経営者として何を大切にするのかが問 われる場面である。

②顧客に鍛えてもらう

 従業員は、顧客から「ありがとう」という言葉をかけられると、満足度が一気に高まる。しかし、いつも褒めてもらえるとは限らない。時にはクレームが寄せられ、その対応で苦労することがある。そのようなとき、周囲の適切な支援が重要である。

 クレームに真摯に対応すれば、それがきっかけで顧客の信頼が増すこともある点を説明して、対応させる。決して一人で対応しているのではないこと、常に見 守っていることを伝えておくことも忘れてはならない。これは、「信頼できる仲間の存在」と関連している。

 もし、その顧客の担当者が新人であれば、以前から親しくしているベテラン従業員が新人の知らないところで顧客と話をして、新人の育成に協力してもらうこ とも可能だろう。困難を乗り越えた先にしか本当の満足感はないことを体験させる機会を上手に利用するとよい。

③達成感を得られるような仕事の与え方

 終わりのない仕事を担当させられるほどつらいことはない。どんなに意義のある仕事でも、区切りのない仕事だと満足度は落ちていく。そこで重要になるの が、仕事の与え方である。息の長い仕事であれば、小さなまとまりに分けて担当を決め、ステップを刻んでいくのがよい。

 管理職が仕事を配分するとき、部下に仕事の最終到達点と当面の目標の両方をしっかり説明する。そして、一定期間ごとに進捗状況を確かめ、できたこととで きていないことを整理する。できたことについてはそれをねぎらい、できていないことについてはこれからどうするかを一緒に考えて、新たな目標を設定する。 これを繰り返していけば、達成感を得られるはずである。

 これは、「上司や同僚からの認知」があって初めて成り立つ。職場の人間関係は、仕事を通して培われるものであり、苦労をともにすることによって育まれる。仕事基盤の要素と人間関係基盤の要素の密接な関連がここにも存在している。

④成長を実感できる工夫

 自分がどれだけ成長しているかは、案外わからないものである。それを評価して本人に知らせるのは上司や先輩の役割である。「よくやった」とか「成長した な」と声をかけてもらうと、自分ではよくわかっていなかった成長を実感することができる。顧客から感謝の言葉をもらうときも成長を感じられる場面である。 ここでも 、上司や同僚からの認知が重要な要素となっている。

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール