労働法の改正は規制強化か適正なルールの再構築か?(下)

3.2011年の労働法制の展望
労働者派遣法の改正

 プレーヤーの質が落ちてしまった日本社会において、競争参加者が健全な行動をとるようにするには、ルールの再構築が必要である。その観点から最も争点に なるのは、労働者派遣法の改正であろう。昨年の第176国会に改正案が上程されながら継続審議になっている法案である。この改正案は、これまで自由に使え てきた派遣労働に様々な制限をかけることになり、経営側から激しい反対の声があがっている。一部の労働組合も、自社の経営の自由度を縛ることになるのでは ないかと懸念し、組合員の雇用不安につながるのではないかと心配している。

 昨年上程された改正案は、以下の規制強化を含んでいる。


(a)事業規制の強化
 ①登録型派遣の原則禁止(専門26業務等は例外)
 ②製造業務派遣の原則禁止(1年を超える常用雇用型の労働者派遣は例外)
 ③日雇派遣(日々又は2か月以内の期間を定めて雇用する労働者派遣)の原則禁止
 ④グループ企業内派遣の8割規制、離職した労働者を離職後1年以内に
  派遣労働者として受け入れることを禁止


(b)派遣労働者の無期雇用化や待遇の改善
 ①派遣元事業主に、一定の有期雇用の派遣労働者につき、
   無期雇用への転換推進措置を努力義務化
 ②派遣労働者の賃金等の決定にあたり、
   同種の業務に従事する派遣先の労働者との均衡を考慮
 ③派遣料金と派遣労働者の賃金の差額の派遣料金に占める割合
   (いわゆるマージン率)などの情報公開を義務化
 ④雇入れ等の際に、派遣労働者に対して、一人当たりの派遣料金の額を明示


(c)違法派遣に対する迅速・的確な対処
 ①違法派遣の場合、派遣先が違法であることを知りながら
   派遣労働者を受け入れている場合には、派遣先が派遣労働者に対して
   労働契約を申し込んだものとみなす
  ②処分逃れを防止するため労働者派遣事業の許可等の欠格事由を整備


適正なルールの再構築

 以上の点を規制の強化と見るのか、適正なルールの再構築と見るのかは、何を判断基準とするかで異なるところである。筆者は、労働者を機械の一部のように 扱い、モノと同じように取引することは、日本経済の健全な発展に資することにはならないと考える。

 派遣労働者を受け入れている企業が派遣会社に支払う費用は、会計上、人件費ではなく物件購入費として処理されている事実を読者はご存じだろうか。正社員 が辞めたあとを派遣労働者で代替すると、見かけ上の人件費は下がる。そのようにして経営指標を作ったとしても、現場の力が落ちてしまっては元も子もない。 第一線の管理職に話を聴くと、足りない人員は派遣労働者で補えばいいという手法に対する批判がたくさん出てくる。

 労働力は、個々人が所有しているが、同時に公共財的な性格を持っている。公共財とはみんなのものという意味である。社会の中に存在する労働力には限りが ある。日本は、冒頭に述べたように人口減少局面に入っている。そのような状況下で、労働力を無駄遣いすることは、できるだけ避けなければならない。企業の 短期的な都合で労働力を浪費することには、一定のルールが必要である。労働者派遣労働法の改正案に関する議論を通して、私たちはこれからどのような社会を つくっていこうとするのかを改めて考えてみなければならない。

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール