作業を仕事に変えることが能力開発の基本

私は、学生に「作業をしていたのでは能力は伸びない。仕事をすることで人は成長する」という言い方をしています。

作業とは、言われたことをそのまますることであり、仕事とは、作業に自分なりの工夫を加えて実行することです。これは私の勝手な定義であり、一般的なものではありません

 

仕事と作業の違いを、私は学生に次のように説明しています。

君たちが会社に入って営業担当になり、ある営業所に配属されたとしよう。上司から伝票を渡され、「これで顧客リストを作ってくれ」と言われたとする。

表計算ソフトを立ち上げ、伝票に記載された情報を表頭に、顧客の名前を表側に配置して、データを入力して票を作る―これは単なる作業である

では、仕事とは何か?上司は何かの目的があるからリストを作ってほしいと言ったはずである。上司が目的を十分に説明してくれなかったのなら、使用目的を質問することから始めなければならない。

リストを使う目的がわかれば、表の作り方に工夫の余地が出てくる。重要な情報を表の最初の方に配置したり、フォントを変えて見やすくしたり、色をつけて目立つようにするといったことである。このような工夫を加えてリストを作るのが「仕事」だ

でも、自分なりの工夫を加えて表を作ると、上司から「余計なことをした」と叱られるかもしれないもし、上司がそのような反応をしたら、どういう点がまずかったのかをたずねればいい。自分の考えた工夫と上司の考えが違ったことを確認できれば、次の仕事に活かすことができる。

言われたことをそのままやっていては能力の伸びは小さい。自分の工夫を仕事に込めて初めて、能力育成につながるのである

この話は、毎日、山のような仕事に追われている方には、単なる理想論にしか写らないかもしれません。「工夫をしたいとは思うけど、そんなことをしていると業務に支障が出てしまう」という声が聞こえてきそうです。

しかし、1週間に一つでいいから自分なりの工夫を込めた仕事をしていただきたいと思います。これを続けていくと、1年間に少なくとも50の工夫がなされることになります。気がついてみると大きく成長した自分に出会えるはずです

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
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