103 若者が辞めない会社にするには…

 

 「せっかく若者が採用できたのに辞めてしまった。残念だ!」このような話をよく聞きます。「最近の若手はこらえ性がない。ちょっとイヤなことがあるとすぐに辞める。困ったものだ。」こういう声も聞こえてきます。そこには、若者が辞めるのは本人に問題があるからだという主張が込められています。

 

 でも、本当にそうでしょうか。採用した若者が辞めずに頑張っている企業もたくさんあります。私は、これまで、たくさんの中小企業を見てきましたが、若手が定着している企業に共通して言えるのは、社長が自社製品に誇りを持ち、常に改良を重ね、製品の素晴らしさと社会的意義をことあるごとに従業員に語る姿です。

 

 大型船舶のエンジン部品を作っている企業の社長が、こんな話をしてくれました。

「ウチは従業員40人の小さな会社だけど、若手が入ってきたら、必ず造船所に連れて行くことにしています。自分たちが作っているものがどんな働きをしているかを実際に見せるためです。

 

 大型船は、多くの荷物を積んで世界中の海を航海します。もし、ウチが納入した製品が原因で大洋の真ん中でエンジンが故障して止まったらどうなるかを想像させます。乗組員の命がかかっていることを実感すれば、どんな部品でもおろそかにしてはいけないという気持ちが生まれてきます。

 

 造船所を見せた後、若者の目の色が変わります。そうなれば、こっちのものです。少々きついことがあっても、辞めることはありませんね。」

 

 中小企業の良いところは、社長との距離が近い点です。自社製品に対する思い入れが人一倍強く、いつも製品のことを考えている社長が、目を輝かせて語りかけてくると、思わず引き込まれてしまいます。

 

「これはね、こんなにすごい機械なんだ。これが世界の中で困っている人をこうやって助けるんだ。」

 

「世界に打って出るには、君の力が必要だ。いまはわからないことだらけで苦しいと思うけど、必ずパーッと視界が開けて、わかる日が来る。何でも教えるから頑張ろう!」

 

 このように語りかけられて心が熱くならない若者なら、さっさと辞めてもらった方が得策です。

 

 若者が辞めない会社にするのは簡単です。経営者が、若者に向かって直接、夢を語ればいいのです。ふだん考えていることを口に出して話せばいいのです。そのためには、常に次の一手を考えていることが必要です。目先の利益ではなく、社会の役に立つ企業になることを目指している会社なら、若者は必ず定着して、力を発揮してくれます。

 

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
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