前回のブログで、これからも必要とされる能力は、問題を発見する力であり、問題解決のために人々の力を結集する能力であると述べました。今回は、前者の問題発見力について考えたいと思います。
同じものを見ても人によって感じ方が違います。同じ話を聞いても、そこから得られるものは各人それぞれです。そのような違いが生じるのは、私たちが自分の中に蓄積されている情報や経験・体験を駆使して、受け取った情報を理解しようとするからです。
以前見たことのあるものと似ていれば、「ああ、あれと同類だな」と自分の中のデータベースに分類します。誰かの意見を聞いたとき、「自分と同じだな」とか「自分とはちょっと違うな」と判断し、その線に沿って相手の意見を自分の中に位置づけていきます。
各人が持っているデータベースが違うので、同じものを受け取っても、受けとめ方が異なるのです。
同じ組織で働いていると、共通のデータベースが出来上がり、構成員の見方が似てきます。それは、しばしば社風という言葉で表現されます。
社風は、価値観を共有することです。ある状況に置かれて、右か左か選ばなければいけないときに基準を提供するものです。「この場合は、右の方に価値がある」と多くの構成員が判断するとき、根底に流れているのが社風です。
社風は、一体感をつくっていく上でとても大切です。しかし、まったく新しい発想を生み出しにくいという限界を含んでいます。
新しい状況に直面し、これまでとは異なる対処をしなければならないとき、価値観を共有しているがゆえに、構成員の中からは他の人とは違う見方や意見がなかなか出てきません。
だからこそ、外部のコンサルタントを入れる意味があると言えます。まったく異なる視点から状況を分析してもらうことで、新しい考え方を知ることができるからです。
では、同じ組織の中にいながら異なる視点を持つにはどうしたいいでしょうか。
私は、2つのことが重要だと思っています。①常に外部の情報に接していること、②社内の他部門の人と議論する場を持っていること。
仕事がおもしろくなってきたり、忙しくなってきたりすると、会社の中に閉じこもりがちになります。すると、発想が一面的になり、多様な考え方ができなくなります。
忙しいときほど外に出て、いつもは会わない人に会ったり、全然分野の違う人と話をしたりすることが必要です。社会人向けの大学院に行って勉強したり、勉強会に出たりするのもいいですね。
外の世界を知ると、会社の中で悩んでいることが実はそんなに重要ではないことに気づいたり、斬新な解決策を思いついたりします。
もう一つの点、社内の他部門の人と議論することは、足元を見据えるために重要です。現場で何が起こっているのかを知らずして、問題の本質をつかむことはできません。
最近、多くの会社で部門間の連携が悪くなったと言われます。自分のところに割り当てられた仕事さえしていればいいという風潮が見られるのは残念です。
仕事は、みんなで力を合わせて遂行していくものです。横の連携なしに、いい仕事ができるはずがありません。
そこでお薦めしたいのが、課長会や部長会の実施です。最低でも月に1回、できれば2回くらい、課長だけ、あるいは部長だけが集まって会議をするのです。現状報告で十分です。「いま、ウチの職場でこんなことが話題になっている」とか「最近、こんなことをお客様から言われた」といった情報を交換すると、何が仕事をやりにくくさせているのかが見えてきます。
問題発見は、現場をしっかり見て、顧客の声を聴き、異なる発想をすることで可能になります。自分の中に、常に「いつもとは違う自分」を育てていくことが必要ですね。
投稿者プロフィール

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法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール
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