前回のブログで、大学の4年間は子どもから大人への大転換をする時期だと述べました。では、この大転換をどう実行すればいいのでしょうか。
私は、(ア)境遇の違う人たちとたくさん話をすること、(イ)自分で選ぶ習慣を身につけること、(ウ)失敗をたくさん経験することの3点が有効だと考えています。
境遇の違う人とたくさん話すこと
会社で働くようになると、初対面の人と話す機会が増えます。初めて会った人がどのような言語体系を持っているかを瞬時に判断し、使う言葉を選んで相手とわかり合うのが大人のコミュニケーションです。言語体系とは言葉に対する感覚であり、私たちは、それぞれに異なる体系を持っています。
例えば、「青い空」という言葉を聞いたとき、具体的に思い浮かべる映像は人によって異なります。雲一つない真っ青な空をイメージする人もいれば、雲が少し浮かんでいる空を思い描く人もいます。一つの言葉から具体的にイメージする像は、人によって微妙に違うのです。だからこそ、仕事の上では、何度も話し合いを重ねて共通認識を作っていかなければなりません。
大学に入ると、最初は知らない人が大半ですが、徐々に友だちのグループができます。そして、多くの学生は、気の合った友人とだけ話すようになります。これでは、コミュニケーション能力は育ちません。
年齢、育った場所、好み、体験してきたことなどがまったく異なる人と会い、話をする機会をできるだけ多く持つことが重要です。大学は、OBやOGを招いて現役学生との交流の場を設けたり、地域社会の人たちと交流する場をつくったりして、学生のコミュニケーション能力向上に努めています。
自分で選ぶ習慣を身につけること
大学に入ると、高校までとは違って、受講する講義を自分で選んで時間割を組み立てます。この時、単位を取りやすい先生とか話がおもしろい先生の情報を先輩から得て、何を学びたいかという点とは関係なく受講科目を決めてしまう学生がたくさんいます。このような決め方では、自分で選んだことにはなりません。
他の人が選んでいるから自分もそうするのではなく、自分はこう考えるからこれを選ぶという習慣を身につけることが大切です。これは、友人と食事に行ったときに何を選ぶかという場面でも鍛えられます。あえて他人とは違うものを選ぶことも必要ですね。
自分で選ぶ習慣を身につける上で有効なのは、他の人とは違う志向の友人を持つことです。「あいつはちょっと違うよね」という友人は、他人に迎合しないという特性を持っています。自分の選択をチェックする上で、参考になる基準を提供してくれます。
失敗を経験すること
大学時代は、挑戦の連続であるべきです。できるかどうかわからないことに挑戦してみるのは、大学生の特権だと言ってもいいでしょう。挑戦すれば失敗します。失敗はつらいです。でも、失敗から学ぶことはたくさんあります。
私は、8勝7敗の経営が理想だと考えています。もちろん、経営者は15勝0敗をねらいますが、現実はそう甘くありません。15勝を狙って、ようやく8勝できるというのが実情でしょう。7勝8敗では企業が倒産しますから、勝ち越すことが大切です。負けることを恐れていては勝ち越せません。
挑戦して失敗した経験が人を成長させます。子ども時代は、失敗しないように親が守ってくれました。でも、大人になると、自分の身は自分で守らなければなりません。失敗してもそこから何かを学び、へこたれない強さを身につけることが自分の身を守ることにつながります。どれだけ失敗をしたかが大人への大転換を助けると思います。
投稿者プロフィール

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法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール
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