111 管理職の3つの役割(その3) 問題を発見する

 ビジネススクールの教材としてケーススタディが良く使われます。実際に起こった出来事を調査して、5W1Hを記述していきます。ハーバード・ビジネススクールが開発し、これまでにたくさんのケースが積み重ねられてきました。日本では、慶應ビジネススクールが開学以来ハーバード・ビジネススクールに学んで、ケーススタディの手法を取り入れて教育しています。

 

 

 「ビジネススクール=ケーススタディ」という感がありますが、ケーススタディは万能ではありません。マイケル・ロベルト著『なぜ危機に気づけなかったのか?―組織を救うリーダーの問題発見力』(英治出版)の冒頭に、国務長官を務めたマクナマラ氏との会話が紹介されています。

 マクナマラ氏は、ハーバード・ビジネススクールの出身で、ケース・スタディをたくさん経験してきた人です。その人物が著者のロベルト氏に次のように言います。「ケーススタディの欠点は、問題が何かわかっていることだ。他方、現実の世界では、問題が何かを特定できないことが多い。本当に必要なのは問題を発見する力だ。」

 

 

 貴社でも、ありませんか?「何かおかしいのだけど、何がどうおかしいのかがよくわからない。」そうです。問題を特定するのはとても難しいのです。問題がはっきりすれば、解決策はいくらでも用意できます。他の企業が試してみた経験が比較的簡単に手に入ります。あとは、それらの解決策の中から適切なものを選んで実行するだけです。問題が何かを明らかにすること―これが管理職に求められる3つめの役割です。

 

 

 では、どうすれば問題を発見できるようになるのでしょうか。一つの有効な方法は、外の世界を知って、別の視点で物事を見られるようになることです。管理職は、会社の中だけで仕事をしていてはいけません。外に出て、いろいろな人と議論する機会を持つことが必要です。自社で当たり前として受け入れられていることが他社ではそうでなかったり、自社では大きな問題になっていることが他社ではそうでもなかったりします。外の世界を知ることで、自社の問題を多様な視点からとらえる能力が磨かれます。

 

 

 これは、他社と比較するとか、ベンチマークを決めてチェックすることにつながります。人のすることには共通性がたくさんあります。同業他社だけでなく、全く別の業種で起こっていることが役に立ったりします。眼を開いて、フィルターを通さずに、しっかり観ることが問題発見の第一歩です。

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
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