2013年4月1日から、改正高年齢者雇用安定法が施行され、従業員が希望すれば65歳まで働き続けられるようにすることが企業に義務づけられました。60歳定年制をとっている企業であれば、継続雇用制度を用意して、希望者全員が働き続けられるようにしなければなりません。
改正法は、いきなり65歳までの雇用確保を求めるのではなく、厚生老齢年金の支給開始年齢に合わせて、3年ごとに1歳ずつ延ばしていけばいいことになっています。当面は、61歳までの雇用延長を実現すればいいので、多くの企業は「とりあえずの措置」として受け止め、さほど大きな混乱は起こりませんでした。
この法律改正に対して、経営者団体は「政府の公的年金政策の失敗を民間企業に押しつけるとはけしからん」といった内容のコメントを出していました。確かに、今回の措置は、公的年金の支給開始年齢が65歳に向かって引き上げられる中で、賃金も年金も受け取れない無収入期間を生み出さないために取られたものです。その点だけ見れば、経営者団体の批判は的を射ているように思えます。
しかし、なぜ公的年金制度の改定が必要になっているのかという、元々の原因に注目すれば、責任を政府の政策の失敗だけに負わせるのは無理があることがわかります。
公的年金制度の維持が難しくなっている原因は、長寿化と少子化が同時進行しているからです。長寿化だけであれば、こんなにおめでたいことはありません。日本の平均寿命は世界トップクラスですし、健康寿命も世界一です。不老長寿は、竹取物語にも出てくるような、昔からの私たちの夢です。それを実現しつつあるのですから、喜ぶべきことです。
しかし、事態はそれほど単純ではありません。長寿化と同時に少子化が進んでいるために、全人口に占める65歳以上の比率が急速に高まっています。少子化が起こっていることが、長寿化のおめでたい側面に影を落としています。
では、少子化の責任者は誰でしょうか。少子化は、何が原因で起こっているのでしょうか。ひと言で言えば、女性が子どもを産み育てたいと思うような社会をつくってこなかったことが最大の原因です。
総務省の「労働力調査」によれば、30歳代から40歳代前半の男性の約2割は、週に60時間以上働いています。この年代は、子育ての年代でもあります。女性が結婚して子どもを持ちたいと思ったとき、パートナーの男性は仕事に多くの時間を取られ、子育てを一緒に担うことを期待できません。働きながら子どもを育てようとしても、とても難しい現実があります。多くの企業が従業員に長時間労働を求めてきた結果として、少子化が起こっているとすれば、高年齢者雇用安定法改正の原因は企業側にもあると言えます。
社会の問題は、一部の人たちだけが責任を取ればすむというものではありません。どんな問題も、社会を構成する各人が責任の一端を担っているのです。長寿化というおめでたいことを本当におめでたいものにするために、社会の仕組みを変えていく必要があります。高齢者雇用は、政府の政策が失敗したから必要になったのではなく、私たちの社会を住みやすい状態に保っていくための措置であると受け止めて、前向きに取り組んでいく必要があると思います。
投稿者プロフィール

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法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール
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