日本の特徴は高齢化のスピードが速いこと
人口構成の高齢化は、日本だけではなく先進国や中進国にも共通した課題です。日本の特徴は、高齢化のスピードが速いことにあります。『平成22年版高齢社会白書』によると、高齢化率が7%を超えてからその倍の14%に達するまでの所要年数(倍化年数)は、フランスが115年、スウェーデンが85年、比較的短いドイツが40年、イギリスが47年であったのに対し、日本は、1970年から1994年の24年間で7%から14%になりました。
スピードは各国まちまちですが、高齢化自体は世界的な傾向です。ヨーロッパ諸国はもとより、アジア各国も確実に高齢者の割合は高まっています。その中で先頭を切っているのが日本です。世界の最先端を走るというのは、お手本がないため、自分たちで道を切り開いていかなければなりません。たいへんな道のりです。しかし、見方を変えれば、これほどチャレンジングでおもしろい課題はないとも言えます。
事実、世界の国々は、日本の高齢化対策に注目しています。ドイツの研究者は、「ドイツの高齢化問題は、日本よりも5年遅れてやって来るという印象を持っている。そのため、日本の施策の成功失敗を注意深く研究している。」と話しています。お隣の韓国や台湾からは、多くの研究者が日本を訪れ、高齢化対策を研究しています。いまや日本は、高齢者活用の分野で世界に範を示す国になっているのです。
人類の理想を実現しつつある日本
日本の高齢化のスピードが速いのは、長寿化と少子化が同時に発生しているからです。この点については前回触れました。不老長寿は、昔からの人類最大の目的であり、日本はその目的を達成しつつあると言うこともできます。それは、平均寿命だけでなく、健康寿命も世界有数だからです。
2010年の平均寿命(0歳児の平均余命)は、男性79.64歳、女性86.39歳、同年の健康寿命(心身ともに自立して健康に暮らせる年齢)は、男性70・42歳、女性73・62歳でした。厚生労働省基準の健康寿命と世界保健機構(WHO)基準の健康寿命には、両者の定義の違いによって若干の差がありますが、健康に長生きするという点でも日本は世界のトップを走っているのです。
私たち日本人の叡知を示す
このように書いても、心の晴れない読者は多いと思います。「確かに世界の最先端かもしれないけれど、人口構成の高齢化は問題ばかり多くて、決して手放しで喜べるようなものではない。社会保障費の負担は年々増大するし、公的年金に対する不安も増すばかりだ。未来に希望など持てないではないか」という声が聞こえてきそうです。
社会は、それぞれに問題を抱えています。暴動やテロなど生命の危険と隣り合わせの国や国民の大半が飢えに苦しんでいる国、言論が統制されていて自由に意見が言えない国など、日本ほど安全で自由な国は他に数えるほどしかありません。
人口構成の高齢化は確かに問題ですが、解決できない課題ではありません。しかも、世界中の国が日本の動向を注視し、成功した施策は他の国の指針になるのです。国民経済の規模では中国の後塵を拝するようになりましたが、高齢化問題への対策では、他国から尊敬され、模範となることができると言えます。日本の叡知を世界に示せる絶好の機会であるととらえ、果敢に挑戦していこうではありませんか。
投稿者プロフィール

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法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール
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