117 企業はヒトの結合体

カネの結合体に注目する経営者

 

 企業は、カネの結合体であると同時にヒトの結合体です。この両方があって初めて、企業は継続的に活動し、世の中に対して価値ある財やサービスを提供できます。どちらか一方が強くなりすぎたり弱くなりすぎたりすると、「あの会社、最近変だよね」と言われることになりかねません。

 

 企業の中には、カネの結合体の面倒を見る部署がたくさんあります。経理・財務部門に始まって、経営企画、営業・マーケティングなど、カネの動きは多くの従業員によって監視されています。他方、ヒトの結合体のお世話を専門的に受け持っているのは人事部です。第一線の管理職も、部下の面倒を見ることを通して、ヒトの結合体の運営に関わっています。

 

 経営者は、一般的に、カネの結合体の側面に目を向ける傾向が強いと言えます。特に、バブル崩壊後の経済の低迷から抜け出すために、経営者はカネの結合体への注目度を高めました。振り返ってみると、バブル期は異常でした。高価なモノが飛ぶように売れ、人々はこぞってお金を使いました。バブルが大きかっただけ、はじけたときの落ち込みも深くなりました。しかも、それまでの不況期とは異なり、深い落ち込みが長く続くことになりました。

 

 

人員削減によるコスト削減

 

 売上が低迷する中で利益を出すにはコストを下げるのが最も確実な手段です。1980年代までは、緊急の場合を除いて、雇用に手をつけることはありませんでしたが、90年代は違っていました。背に腹は代えられず、多くの企業が人員削減に走りました。最初は、どの企業も、同業他社や同じ地域の他企業を見ていました。「自分のところが最初に人員削減に踏み切るのはまずい。」ある種のガマン比べでした。そして、耐えきれなくなった企業が人員削減を発表すると、他の企業も堰を切ったように人員削減を行いました。

 

 人員を減らすと、その人数分だけ人件費が減りますから、コスト削減効果は目に見えて現れます。希望退職募集の割増金で少し経費負担がかさんだとしても、収益改善に大きく貢献しました。コストを減らすための人員削減は、禁断の果実でした。いったんこの味を覚えた経営者は、苦しくなるたびに手を出しました。そして、「人を減らすのは企業が生き残っていくために当然の手段だ」という考え方が一般的になりました。従業員との信頼関係は徐々に崩れていきました。

 

 

信頼関係の再構築が必要だ

 

 いま、グローバル化が叫ばれています。日本市場が縮小していくのですから、活路を海外に求めるのは当然の成り行きです。自社の製品・サービスの価値を海外市場で正当に評価してもらうのは、なかなかたいへんです。それなりの力量を持った人材でないと、この役目を果たすことはできません。結局はヒトの力が成否を分けることになります。

 

 私たちは、もう一度、ヒトの結合体を強くすることに取り組まなければなりません。その第一歩は、信頼関係の再構築です。経営者がヒトの可能性を最後まで信じ、従業員と一緒に歩むことが重要です。カネは借りることができますが、自社に本当に必要な人材は借りてくることができません。結局は、自社内で育成するしかないのです。地道な努力を積み重ねた企業が最後は勝者になることは、洋の東西を問わない真実だと思います。

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール