私は、仕事に関係ない本を読むのが好きです。経済学や経営学の本ばかり読んでいると、発想が偏ってくるような気がするので、努めて他分野の本を読むようにしています
いま、私は、ミツバチについて書かれた本を読んでいます。ローワン・ジェイコブセン『ハチはなぜ大量死したのか』(文藝春秋刊)です。
最近、ミツバチの大量失踪が話題になっていますね。巣箱がカラになってしまったというニュースがときどき流れます。「いったい何が起こったんだろう?」と不思議に思っていました
そのときに出会ったのが、この本でした。今年の1月末に出版されていますから、約3か月たってから手に取ったことになります。
この本を読むと、ミツバチのすごさがよくわかります。強力なリーダーがいて統率しているわけではないのに、集団として統制が取れていて、見事な社会を形成しています。自然は偉大なものを創り上げたのだなと思います
そんなミツバチが一気にいなくなったり死んだりする現象は、2006年頃からアメリカで顕著に見られるようになったそうです。日本で発生しているミツバチの大量失踪など比ではないような、大規模な崩壊が起こっていることが克明に書かれています。
生命体は、様々なバランスを保って生きています。私たちの腸内にも善玉菌と悪玉菌があって、両者がせめぎ合いながらバランスを創り出していることはよく知られています。
ミツバチの社会も微妙なバランスの上に成り立っているのだそうです。そのバランスを崩したのが、人間の身勝手な行動にあるというのがジェイコブセン氏の主張です
巣箱をトラックに載せて一つの地域から他の地域へと長距離移動させること、アーモンドの受粉のために狭い地域に大量のミツバチを集結させること、早春に活動させるために暖かい場所で冬を過ごすとともにコーンシロップを大量に与え続けること、害虫に強い作物を作るために使われる農薬がミツバチの方向感覚を狂わせているらしいこと……あげていけばきりがありません。
私たちは、目先の利益にとらわれて行動することがしばしばあります。例えば、フロンガスが登場したとき、人々はその安定性と扱いやすさ、価格の安さを絶賛しました。しかし、その後、フロンガスがオゾン層破壊の原因になっていることがわかり、一転して悪者扱いになりました
自然には、長い歴史の中で培われてきた復元力があります。行き過ぎれば元に戻す力が働き、少なくなりすぎると大量発生させて絶滅を防ぎます。
私たちも自然の一部であり、もともと備わっている復元力があるはずです。目先のことに一喜一憂するのではなく、長い目で見て判断する力が復元力を支えているのだと思います
ミツバチの大量失踪は、私たち人間の傲慢さに対する警鐘のようにみえてなりません。元に戻せなくらいまで破壊される前に、叡知を働かせることが必要ですね
投稿者プロフィール

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法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール
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