世界で戦える人材とは、自国の歴史と文化を知り、相手国の歴史と文化を知った上で、相手が慣れ親しんでいる論理構成を用いて、日本や自社のことを説明できる人である。では、このような人材は、どうすれば育成できるのだろうか。最も大事なことは論理的な思考力と表現力である。
私たちは、言葉を使って考えている。特に抽象的なことは、言葉を自由に操れないと考えられない。語彙が豊かで、一つの事象をいろいろな方法で表現できる人は、思考力も優れている。逆に、語彙が貧しい人は表現も稚拙であり、思考力も低いと言わざるをえない。
子どもをバイリンガルにしたいために、インターナショナルスクールに通わせる親が増えているという。個人の選択なのでとやかく言うことはできないが、子どもの思考力を高めるという観点から見ると、賢明な選択とは言えない。
筆者がドイツに留学していた1980年代の初め、ドイツ国内で働くトルコ人労働者の子どもたちの言語能力が問題になっていた。彼らは、家ではトルコ語で両親と話し、学校に行くとドイツ語で授業を受けていた。具体的なものがある状態では完全なバイリンガルなのだが、抽象的な思考になるととたんに発言は曖昧になり、はっきりとした意見を言えなくなっていた。トルコ語もドイツ語も中途半端だったため、頭の中で論理を展開しなければいけないような話になると、ついていけなくなったのである。いま、インターナショナルスクールに通っている日本の子どもたちが、同じような問題を抱えないことを祈っている。
世界で戦うとは、論理的思考力で勝負することである。論理的に考えるには、言語力を高めなければならない。大半の日本人にとって、日本語能力を磨くことが世界で戦う力の基盤となる。自国の歴史と文化を語れることこそが、真のグローバル人材になる第一歩であることを強調しておきたい。
投稿者プロフィール

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法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール
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