管理職を敬遠する傾向
最近、管理職になりたがらない若手が増えていると言われる。従業員に対して、「将来、管理的な仕事と専門的な仕事のどちらをしたいか」と質問すると、「専門的な仕事をしたい」という割合が高く出る。あるいは、管理職昇進を打診された従業員が昇進を断るという現象も少なからず見られる。
1990年代半ばから多くの企業で取り組まれた「フラットな組織」は、若者の管理職志向に影響を与えてきた。主任や係長といったポストがなくなり、部長の下には何人かのプロジェクトリーダーが配置され、その他の人たちはプロジェクトメンバーとして横一線になった。
主任や係長というタイトルがつけば、自分の下に来た後輩のめんどうを見なければならないという気持ちが湧いてくる。しかし、上下関係のないメンバーとなると、後輩だから指導しなければならないという意識を持たなくなった。後輩が聞きに来れば教えるけれど、わざわざこちらから、言いにくいことを言わなくてもいいと考え、あえて手を出さないという職業生活を送ってきた人たちが「管理職適齢期」になっている。
フラットな組織のもとで、後輩があまり入ってこないという状況に置かれてきた世代は、誰かを指導しながら一緒に課題をやり遂げていくおもしろさをあまり経験しないまま、管理職適齢期になった。しかも、管理職と専門職のどちらかを選べると言われて会社生活を過ごしてきたので、「管理職と専門職のどちらが得か」という計算をする世代でもある。
最近の管理職を見ていると、決して魅力的に見えないというのが部下たちの実感だ。
(ア)何時間働いても残業手当が付かないので、管理職になるとそれ以前よりも給料が減る。
(イ)残業代の総枠が決まっているため、部下に長時間労働をさせるわけにはいかない。そこで、部下を早く帰らせ、管理職が残って仕事を片づけている。
(ウ)上から降ってくる課題が多いにもかかわらず、部下の数は減らされる。補充されるのは派遣社員ばかりで、戦力になりにくい。
(エ)いつも何かに追いかけられているような感じで、楽しそうに仕事をしていない。
(オ)責任ばかり多くて権限がない。
疲れている管理職の姿を毎日見ていると、「そうまでして管理職にならなくてもいいのではないか」と考えるのも理解できる。専門職で働き続ければ、給料はあまり上がらないけれどそれなりの生活はできるし、管理職になってつらい目を見るよりはいいだろうと思っている人が多いようである。
難しいからおもしろい
確かに、管理職は楽な仕事ではない。目を配らなければならない範囲は広いし、矛盾する課題を突きつけられて解決を迫られる局面が何度もある。でも、難しいからおもしろいと言えるのではないだろうか。
読者の中には、ゴルフが好きな方もいらっしゃるだろう。池もバンカーも傾斜もない、平坦なゴルフコースを想像してみてほしい。おそらくとても良いスコアが出るだろう。でも、このようなコースで何度もプレーしたいと思うだろうか。おそらく、すぐに飽きてしまうのはないかと推察される。
バンカーがあったり、池があったりするから、次はどこに打とうか考えながらプレーし、うまくいった、いかなかったで、歓声やため息が出るのだ。グリーンに傾斜があったり曲がっていたりするから、次の一打でどこまでボールを運んで、どうアプローチするかという工夫が生まれる。スコアが良くても悪くても、18ホールをあがった後に、プレーを振り返りながら仲間と一緒に飲むビールのおいしさは格別である。
世の中に存在するものは、ふつう、難しいからおもしろいと言える。ゴルフもコンピュータゲームも、そして仕事も同じである。簡単に解決できない課題があり、それに挑戦し、克服するから「おもしろい!」と感じ、達成感を持つことができる。管理職という仕事もそれと同じだと言える。
投稿者プロフィール

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法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール
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