大学で勉強しなかった人材は伸びない
先日、大阪で行われたある会合で、大手化学メーカーの人事部長と話す機会がありました。本学の就業力育成支援事業についてお話ししたところ、全面的に賛同してくださいました。そして、次のような実態を語られました。
「若手の採用担当者に学生の選考を任せていると、的外れな人選をすることが時々あります。今年も、若手担当者がある大学の学生を選んできました。その学生は、アルバイトでタレントとして活動していたこともあって、人当たりがとても良く、コミュニケーション能力もありました。でも、大学で真剣に勉強することなく、いわゆる楽勝科目をとって卒業所要単位をそろえていました。
私は、その学生を最終面接に進ませませんでした。それは、大学時代に勉強していないと、30歳代半ば以降の伸びが止まることを経験値として持っていたからです。当社で活躍している人材は、大学時代にしっかり学問してきた人たちです。大学での勉強は、働くようになって必要とされる能力の育成に大いに役立っていると思います。」
我が意を得たりという気持ちでお話を伺いましたが、ふと「大学時代にしっかり勉強したかどうかで30歳代半ば以降の伸びに差が出るのはどうしてだろうか」という疑問を抱きました。大阪から東京に帰る新幹線の中で考え続け、東京に戻ってからも折に触れて思い出して考えていました。その結果、次のように説明できるのではないかと思うようになりました。
根を張り、幹を太くしないと大きな枝を張ることはできない
木は、地中に深く根を張って自らを支え、幹を太くして伸びていきます。根と幹がしっかりしていれば、広く大きく枝を張ることができ、太陽の光をたくさん集めることができます。根と幹がしっかりできていない状態で枝を張っていくと、ちょっとした風で倒れてしまいます。
これを人に当てはめると、根と幹に当たるのが論理的思考能力や議論する力、価値観の異なる人とでも協力していける柔軟性といった基礎的能力であり、枝に当たるのが業務知識やさまざまなノウハウです。大学時代にしっかり勉強すると、根と幹の基礎ができます。根と幹は働き始めてからも強化していくことができますが、基礎ができているか否かで成長度合いが変わります。30歳代になって、責任ある仕事や難しい業務を担当するようになると、多くの知識・ノウハウを蓄えていく、すなわち枝を広く張っていく必要があります。そのとき、根と幹の堅牢さが問われます。
前述の人事部長の経験値は、大学教育の持つ役割と見事に結びついていると言えます。学生たちは、業務知識・ノウハウといった枝の部分に目を奪われがちで、大きく立派な枝は根と幹がしっかりしているからこそ張れるという点を忘れてしまいます。根と幹の基礎をつくるのが大学教育であることを学生に繰り返し語り、学生たちを叱咤激励することの重要性を再認識した経験でした。
投稿者プロフィール

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法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール
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