143 映画『マイ・インターン』に学ぶ高齢期の働き方(下)

◇自ら仕事をみつけて動く

 

 ベンが配属された職場の中に、雑多なものが積み上げられている机があった。ジュールズは、その机の上にあるものを整理してスッキリさせることは自分の役割だと思っていたが、日々の忙しさの中でできないでいた。それを見かねたベンが朝7時に出勤して、きれいにした。整えられた机を見て、ジュールズは感動し、職場のみんなでベンに拍手を送った。

 

 ベンは、上司から命令されて机を整理したわけではない。必要だと思ったから、自分で判断して行動したのである。その他にも、若手の相談にのったり、ジュールズに秘書の働きを直接褒めるようにアドバイスしたり、随所でいい動きをする。

 

 高齢期になると、少し余裕が出てきて、広い視野で物事を見られるようになる。すると、若手が見逃している点に気づくことができる。そのとき、どのように若手に伝えるかが肝心である。これ見よがしに指摘するのではなく、「この部分って、どうなんだろう?」といった具合に、若手自身が自分で気づくように促す言い方をしてみる。少し回りくどいかもしれないが、そうすることで「頼りになる人物」という評価をしてもらえるようになる。

 

 

◇昔の話は聞かれない限りしない

 

 ベンがインターンとして入った会社は、彼が以前働いていた会社の建物を改装して使っている。そのことをベンは、ジュールズから尋ねられるまで話さなかった。そのほか、「昔はこうだった」という話をベンはほとんどしない。これが若手から好感を持たれる理由になっている。

 

 私たちは、ついつい、昔のことを話したがる。「以前はこうしていたんだ」とか「昔は良かったな」という発言が出てしまう。でも、それは、現役世代にとってはどうでもいいことだ。若手から聞かれれば話せばいいのだし、アドバイスを求められたときに必要なら、昔のことを語ればいい。高齢世代にとって経験は財産だが、現在でも有効に機能するものとそうでないものがあることを肝に銘じておく必要がある。

 

 

◇自分のスタイルを大切にする

 

 ベンがインターンとして入った会社の従業員たちは、カジュアルな服装で勤務している。しかし、ベンは、昔ながらのスーツにネクタイという服装を守り続ける。持ち物も伝統的な製品である。カバンは1973年のエグゼクティブ・モデルだし、いわゆるガラ携を使い、卓上にはアナログの時計を置いている。新しいものに挑戦することは大切だが、すべてを変える必要はない。いいものはいいという哲学を貫くことも個性である。若手は、それを見て「カッコイイ」と感じる。そして、若手の一人が、中古のネットショップでベンと同じカバンを購入して、自慢そうにベンに見せる。

 

 カッコイイ大人へのあこがれは昔からある。「いつかはああなりたい」と若手から思ってもらえるような大人が最近減ったように思えてならない。若手が目標にするような大人になることを私たちは心がけたいものである。

 

 

◇身ぎれいにしている

 

 ベンは、休みの日もひげを剃る。いつもしゃれた服装をして、清潔感にあふれている。高齢期になると、加齢臭の問題や肌がくすんでくるなど、よほど気をつけていないと良い状態を保てなくなる。臭いの問題は、家族でも面と向かって指摘するのはなかなか難しい。だからこそ、自分でこまめにチェックすることが必要である。

 

 

いろいろなものから学ぶ

 

 以上、『マイ・インターン』を観て、筆者が感じたことを述べてきた。ここで指摘した6点以外にも、議論できるポイントは多々あるはずだ。ある映画を観たとき、そこから感じ取ることは人によって異なる。それは、各人が見てきたこと経験してきたことが違うからである。違うからこそ、それぞれの意見を述べて話し合うことは、新たな発見を呼び起こす。

 

 アメリカ人も他者との関わりの中でこそ存在感を持てることをこの映画は示している。私たち日本人は、高齢期になっても就労意欲が高い。これは他国と比べて際立っている。このような状況を「仕事ばかりしてきた結果だ」と批判する識者もいるが、筆者は、そうは思わない。それは、働くことは最も手っ取り早い社会参加の方法だからである。働きたいと考えている高齢者がたくさんいて、高齢者を雇いたいという会社があることは、日本社会の財産である。何歳になっても第一線で活躍するために、私たちはいろいろなものから学び続ける必要がある。

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール