部分最適と全体最適

前回のブログで、部分最適は全体最適をもたらさないことを書きました。今日は、その具体例をお話ししたいと思います。

 

みなさんがふだん食べておられるパンの話です。パンを作る会社とそれを仕入れて販売する大手チェーンストアの間で、ちょっと変な状況が起こっています。ここでご紹介する事実は、ある大手製パン会社の工場長から直接話を伺ったものです。その後も、複数の会社の方々から、同じ話を伺ったので、ほぼ実態通りだと考えています

パンは、イースト菌を発酵させて作られる製品で、食パンの場合、仕込んでからできあがるまでに17時間かかるそうです。大手チェーンストアからの注文は、以前、24時間くらい前には入って来ていました。注文数を確かめてから仕込めますから、できた製品はほぼ全量、流通過程にのせることができました。

 

しかし、ある時期から、大手スーパーからの注文が入ってくる時期が遅れ始め、注文を受けてから納入までの時間が17時間より短くなってしまいました。大手スーパーが時間を短くしてきたのは、売れ残りを出したくないという自社にとっての最適化を求めているからです

 

スーパーの商品の売れ行きは、天候やその地域のイベントなどによって大きく影響されます。発注したあとで「大きなイベントが中止になった」という情報が入ると、スーパーはある程度の売れ残りを覚悟せざるを得ません。それを避けるには、発注をできるだけ遅らせた方がいいのです。

 

大手スーパーにとっての最適化は、生産者であるパン製造業者には最適化につながりません。それは、注文数が確定する前に生産に入らなければならず、その結果、作り過ぎてしまうからです。

 

あるスーパーから「1000個ほしい」という注文があったとき、手元に950個しかないと、次回の取引に悪影響が出てしまうので、注文数には必ず対応できるようにします。すると、作り過ぎてしまうのだそうです。冒頭の工場長は、「製品によって違うけれど、だいたい3?5%は作り過ぎてしまう」と話しておられました

 

作り過ぎたパンは、いったいどうなるのでしょうか?

 

パン工場には、一般消費者向けにパンを売っているお店があって、そこで売ることができます。でも、そのルートで売れていく量は微々たるものです。

 

作り過ぎたパンは廃棄されます。廃棄といっても完全に無駄になるのではなく、動物の飼料にするそうです。少なくとも人間の口に入るものとしての扱いは受けていません。最終製品になっていますから、工場の従業員が一つ一つ袋を破って中身を取り出して処理工程にまわし、包装用のナイロンはリサイクル工程に送られます。

 

日本の食糧自給率は、熱量換算で40%を下回っていると言われます。そのような国で、人間の口に入るものとして作られた食品が、みすみす捨てられていくというのは、どう考えても腑に落ちません。何か変だと思ってしまいます

 

この場合、大手チェーンストアが以前のように24時間前に発注するようになれば、問題は解決します。しかし、大手チェーンストアは上場企業であり、株主に対して利益を最大化する責任を負っています。この部分を強調するならば、現在のような「できるだけ遅く発注を出す」行動が最適なのです。

 

でも、少し視点を長く取ってみると、大手チェーンストアは企業としての社会的責任(CSR)を果たしていないと言うこともできます。食糧の無駄を助長するような発注の仕方は、CSRの観点から言うと大きな問題です。

 

さて、この事実を私たちはどう受け止めたらいいのでしょうか。私は、消費者としての見識が問われる問題だと思います

 

24時間前に発注して製パン業者に作り過ぎを起こさせないようにしているA社と、自社の最適化を求めて発注時間をできるだけ遅くし、その結果、製パン業者の生産過剰を引き起こしているB社があったとき、たとえA社の商品が10円高くてもA社でパンを買うという行動を私たちがとるか否かです。

 

全体最適を達成するには、私たち消費者の行動も重要であることを知っておく必要があると思います

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール