私は、学生に対して仕事の話をするとき、次の点を強調しています
もともとおもしろい仕事は世の中にはない。世の中でおもしろいことと言えば、普通、お金を払って買うものだ。ディズニーランドで遊びたければ入場料を払わなければならないし、コンピュータ・ゲームで楽しみたければゲームを買ってこなければならない。
仕事をするとお金がもらえる。お金がもらえるのだから、おもしろいはずがないではないか。働くようになれば変な上司や先輩・同僚とガマンして働かなければならないこともあるし、理不尽なお客様もたくさんいる。イヤなことがあるたびに辞めていたら、いつまで経っても下積みから抜け出せない。
仕事は確かにつらいものだ。でも、つらくておもしろくないことばかりかというとそうでもない。ある日、突然、働いていて良かったと思える瞬間がくる。上司から褒められたり、お客様から「良かったよ」と言ってもらえたとき、それまでのつらいことがすべて払拭されて、「仕事っておもしろい」と感じられるようになる。
そんな経験ができるようになるまでには、少し時間がかかる。少々つらいことがあっても、3年はガマンして勤めてほしい。もともとおもしろい仕事はないけれど、自分の努力によって仕事はおもしろくなるものだ
先日、労働組合役員たちと学生のディスカッションを主催し、最後のコメントをしたときに、オセロゲームとの対比で仕事を語るといいのではないかと気づきました
オセロゲーム、ご存じですね。白の駒を持ったプレーヤーと黒の駒を持ったプレーヤーが盤上に交互に自分の駒を置いていき、相手の駒を挟んだら自分の色にひっくり返せるというゲームです。
黒を仕事の上での失敗や苦労、つらいことだとすると、最初に盤上に並ぶのは黒い駒ばかりです。うまくいかない状態は、負けを予想させ、投げ出したくなります。最近の若年層が、ちょっとしたことで辞めるのは、盤上に黒が数個並んだ状態を見てあきらめてしまうからだと思います。黒が並んだ状態で放り出してしまえば、黒い駒はいつまでたっても黒のままです
でも、黒が並んでも、あきらめずに続けていくと、徐々に白が増えてきます。そして、ある白い駒が置かれた瞬間に、黒がすべて白に変わります。最後に置かれる白い駒は、お客様からの感謝の言葉だったり、上司・同僚からの「よくやった!」のひと言だったりします。
黒の数が多ければ多いほど、白に変わったときの喜びは大きいですね。放り投げたら黒は黒のままです。黒を白に変えられるのは、自分しかいないことを学生たちに伝えようとしています
ただし、すべて個人の責任に帰するのは間違いです。仕事を完遂するには周囲の支えが必要です。特に、働き始めて間もない若年層にはそれが必要です。「最近の若い者はガマンが足りない」と言う前に、上司・先輩がちゃんと支えているかを確認してください。黒い駒が白に変わる瞬間のワクワク感を若年層に語ることが、上司・先輩の務めだと思います
投稿者プロフィール

-
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール
最新の投稿
再び100エッセー2016.04.04143 映画『マイ・インターン』に学ぶ高齢期の働き方(下)
再び100エッセー2016.04.03142 映画『マイ・インターン』に学ぶ高齢期の働き方(中)
再び100エッセー2016.04.02141 映画『マイ・インターン』に学ぶ高齢期の働き方(上)
再び100エッセー2016.04.01140 情報の真偽を見極める眼を育てる