税金のむだ遣い

 いまの日本社会では、壮大な税金のむだ遣いが進行しています。その最大の責任者は、政治家とマスコミです。「むだ遣いをなくせ!」と言って旗を振っている人たちが、実はいちばんのむだ遣いを助長しているという皮肉です

 

 仕事がら、官僚や特殊法人の人たちと一緒に仕事をすることが良くあります。彼らの志気は、大きく下がっています。あれだけマスコミからたたかれ、政治家から目の敵にされては、やる気が低下するのも無理はないなと思います。

 

 

 私たちは、誰かから認めてもらいたいとか、誰かの役に立っているという気持ちに支えられて仕事をしています。「ありがとう!良くやってくれたね」とか「あなたがこれをしてくれたので、とても助かりました」という言葉は、疲れを吹き飛ばし、また頑張ろうという気持ちを起こさせてくれます

 民間企業では、「いかに部下をやる気にさせるか」が重要な課題になっています。企業の競争力を左右するのは、自分の仕事に誇りを持ち、少々困難なことがあってもやり遂げようという気持ちを持った社員です。他方、公務員の世界では、政治家やマスコミが公務員のやる気を失わせるようなことばかりしています。

 

 ホワイトカラーの仕事の質は、その人がどれくらい思い入れを持って仕事に取り組むかで決まります。適当にやって帳尻を合わせればいいという姿勢で仕事をしていれば、仕事の質が高まるはずがありません。思い入れを持って仕事をするには、周囲の認知が必要です。その人の存在を認め、仕事の意義を知ってあげることが何よりも重要です

 

 公務員の中には、決して誉められないような働き方をしている人もいます。でも、それはごく一部の人であって、大半の人たちは一生懸命働いておられます。その人たちの志気を下げるような行為は、税金のむだ遣い以外の何ものでもないと思います。政治家やマスコミが最も税金のむだ遣いをしていると私が考える理由がここにあります

 

 ある大手電機メーカーが業績不振に苦しんでいます。とてもいい製品を作り出してきた会社ですが、ある一時期、経営者が製造部門ではなく金融系の部門を重視する言動を繰り返しました。製造部門は、1年間努力を積み重ねてきた結果、1億円の経費削減ができて利益に貢献しましたという世界です。他方、金融系は、うまくやれば1日で10億円の利益が出ます。経営者の目は、自然と金融系に向いていきました

 

 すると、その会社からおもしろい製品がでなくなってしまいました。製造部門の人たちは、サボろうとしたわけではありません。以前と同じように、いい製品jを作ろうとして開発に取り組んでいました。しかし、気持ちのどこかが萎えてしまったのです。研究開発者たちを支えているのは使命感です。これが少しでも傷つくと、とたんに力が下がってしまいます。公務員の世界で、これと同じ現象が起こっているのではないかというのが私の懸念です。

 

 では、どうすればいいのでしょうか。すべては「信頼」から始まると思います。公務員の側は、信頼してもらえるような働き方をすることです。私たち住民は、公務員の仕事の価値を認め、信頼して任せていることをいろいろな形で伝えることが大切です

 信頼回復には時間がかかります。でも、それに取り組まなければ、壮大な税金のむだ遣いを止めることはできません。この分野でも、北風ではなく太陽が求められていると思います

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール