公務員の評価制度

 前回アップしてから1カ月以上、経ってしまいました。光陰矢のごとし。もっと頻繁に更新するよう頑張ります

 

 7月終わりに、岐阜県可児市にお邪魔し、部下の評価を担当する役職者の方々にお話しする機会がありました。可児市の担当者の方が、雑誌に掲載された拙文を読んでくださり、私の考え方に興味を持ってくださいました。どうもありがとうございました。

 

 仕事を終わってからの2時間、「成果主義」という熱病にとりつかれた民間企業の評価制度の紆余曲折、評価のそもそもの目的、公務員にとっての評価制度とは何かといった点についてお話ししました。一日の業務後ですから、相当お疲れだったと思いますが、熱心に聴いてくださいました

 

 可児市の評価制度は、なかなか良く考えられています。現場を知っている担当者が議論しながら、ていねいに作り込んだという感じのする制度です。機会があれば、是非一度、勉強されるといいと思います。

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 公務員の評価制度について語るとき、約5年前に人事院で行われた研究会を忘れることができません。その研究会のテーマは、「公務員に対する成果・業績制度のあり方について」でした。私は、民間企業が「成果主義」にどれだけ翻弄され、結果として企業競争力を落としてしまったかという点を報告しました。そして、公務員の世界でも「民間準拠」という名の下に、人事制度の改定が議論されているようですが、安易な業績評価制度は入れない方がいいですよ、とも申し上げました。

 

 当時の人事院の方々はよくわかっておられ、「私たちも公務員に民間のような業績評価制度は必要ないと思っています」とおっしゃいました。でも、すぐに続けて、「そうは言っても、官邸から『やれ!』と言われると、従わざるを得ないのですよねぇ」と苦笑しておられました。ちょうど小泉政権の後半でしたが、この方針は、安倍内閣、麻生内閣と引き継がれ、民主党政権になっても変化していません。政治家の「思い込み」は、時として現場を混乱に陥れますが、公務員に対する人事制度改定もその一つの例ですね

 

 可児市の研修で強調したのは、評価制度の本来の目的は何かという点でした。評価というと、すぐに昇給をいくらにするとか、ボーナスにどれくらい反映させればいいのかといった処遇の話が出てきます。処遇は確かに大事です。でも、評価制度のもっと大切な目的は「育成」にあります。

 

 人を育てるには、現状の到達点を明確にしなければなりません。その上で、何を、いつまでに、どのような方法で身につけるのか、という計画を立て、実行します。ある程度時間が経過した後に、再び評価を行い、できていることといないことを明確にし、次に何をするかを決めます。育てるには、評価が必須です。そして、評価するには、部下とのコミュニケーション、信頼関係が不可欠です。可児市でのタイトルは、「人を活かす人事考課制度―部下との信頼関係がすべての基本」でした

 

 公務員のみなさんの仕事は、すぐに結果が出ない場合が多いですね。いい仕事をしようと思えば、じっくり、ゆっくり取り組むことになります。いい仕事をするには、自分に高い能力が備わっている必要があります。物事の本質を見抜く力、難しい状況の中で優先順位をつけられる思考力と判断力が必須です。

 

 いい仕事をしていれば、処遇はあとからついてくるものです。1980年代までの民間企業は、そう信じて実践してきました。その当時の日本企業には、確固とした競争力がありました。でも、処遇を第一に考えるようになった頃から、歯車がかみ合わなくなりました

 

 評価制度における民間企業の最大の失敗は、従業員の頑張りをカネで買おうとしたことにあります。お金をたくさんもらえるのは、確かに嬉しいですが、カネのありがたみは一日で消えます。カネを強調しすぎると、「もっと欲しい」「もっとよこせ」という反応しか返ってこなくなります。

 

 働いているとき、力を与えてくれるのは、お客様の「ありがとう!」の言葉であり、上司や同僚からの「よくやった!お疲れさん!」というねぎらいの言葉です。周囲の人から自分の仕事が認められたとき、私たちは「やって良かった」と思い、それまでの苦労が報われたと感じるのです

 

 評価は大切です。でも、何のための評価なのかをしっかり考えないと、時間と労力ばかりかかって効果があまりないことになってしまいます。公務員の職場では、「長い目で見て判断する」ことを是非大切にしていただきたいと思います。

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール