キャリアという言葉がよく使われます。キャリア開発、キャリア形成、キャリア診断、キャリアの棚卸しなどなど、キャリアという言葉を聞かない日はないくらいです
でも、キャリアって何でしょうか?「キャリア開発が大事だ」と言っている人に、「具体的に何をする必要があるのですか?」という質問をしてみてください。大半の人は、納得いく答えを返してくれないはずです。本当はわかっていないのだけどわかったつもりになってしまう言葉の一つが「キャリア」です
キャリアの原意は轍(わだち)です。泥道を馬車が通ったあとにできる車輪の跡です。そして、キャリアには大きく分けて二つの意味があります。一つは他の人が通った跡であり、他の一つは自分が通ってきた跡です。
これからどのような職業人生を歩むかを考えるとき、先輩たちの経験が参考になります。キャリアパスを考えようとか、キャリアプランを作ろうと言われたときに、題材として示されるのが先人の経験です。
環境変化が大きくない時代であれば、先人の通った道を忠実にたどっていけば、ほぼ同じ目的地に着くことができました。でも、環境変化が大きくなると、先輩たちの経験は役に立たなくなります。比喩的に言えば、次のようになります。
先人の轍をたどって進んでいったところ、川にぶつかった。そこには、以前、橋が架かっていたのだけれど、何かの理由で流されてしまって渡れない。その結果、先人と同じ道をたどることができなくなった。さあ、どうする?
先輩たちの経験は、参考にはなりますが、手本にはなりません。自分が直面する環境の中で、最も望ましいと考えられる道を自分で選んでいかなければなりません。キャリア・ディベロップメント・プログラム(CDP)をどんなに精緻に作ってみても、環境が変われば通用しなくなる部分が増えます。ということは、CDPづくりに時間をかけてもあまり意味がないことになってしまいます
大切なのは、変化に対応する力です。何が起こっても柔軟に受け止めて対応する能力です。変わることを楽しむくらいの大胆さが欲しいですね。
さて、今日の表題のキャリア開発についてです。私は、キャリア開発とかキャリア形成という言葉に違和感を持っていました。「どうもしっくりこない」「わかったようでわからない」という思いを持っていました。それが、最近、すっきりと整理をつけることができました。それは、キャリア開発を「売れる能力を持ち続けること」と翻訳するようになったからです
キャリアを開発するとは、能力に対する需要を考えながら(予測しながら)、自分の能力を高めていくことです。売れる能力を意識することが重要です。
どんなに高い能力を持っていても、値段がつかなければキャリア開発にはなりません。昔、たいていの企業には、「和文タイピスト」なる人たちがいました。彼女らの機嫌を損ねるとたいへんなことになるので、出張に行ったときのお土産は必須事項でした。
しかし、時代が変わり、いまや和文タイプは企業の中から姿を消しました。いま、この時代に「和文タイプができます」と言っても、雇ってくれる企業はありません。いま必要とされているのは、コンピュータのワープロソフトを使って文章を作る力です。これが「売れる能力」なのです。
何が売れる能力になるのかはよくわかりません。自分なりに当たりをつけて挑戦していくしかありません。それがキャリア開発の難しいところであり、おもしろいところでもあるのです。
今日からは、キャリア開発やキャリア形成という言葉を「売れる能力を持ち続けること」と翻訳して使ってみてください。これまでとは違った世界が見えてくるはずです
投稿者プロフィール

-
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
詳細:藤村博之のプロフィール
最新の投稿
再び100エッセー2016.04.04143 映画『マイ・インターン』に学ぶ高齢期の働き方(下)
再び100エッセー2016.04.03142 映画『マイ・インターン』に学ぶ高齢期の働き方(中)
再び100エッセー2016.04.02141 映画『マイ・インターン』に学ぶ高齢期の働き方(上)
再び100エッセー2016.04.01140 情報の真偽を見極める眼を育てる