雇用保障はどこまで必要か?(上)

 困難な課題に挑戦するには、失敗しても大丈夫という安心感が必要です。失敗したらボーナスは10万円、成功すれば200万円、普通にやっていれば100万円という報酬体系だと、一部の人を除いて、挑戦する風土は生まれにくいと思います。

 

 しかし、安心感は、ときとしてぬるま湯体質を作り出します。仕事をしているふりをして組織にぶら下がる従業員を作り出してしまいます

 

 大手マンション管理会社に勤務する友人が言っていました。「ふーさん、東京には働かん奴が多いのぉ。忙しそうに何かしとるけど、たいしたことはしとらん。わしゃぁ、そういうのを見ると腹が立つんじゃ!」

 

 そうです。彼は広島出身で、広島弁を頑なに守り通しています。彼は大阪支店で高業績をあげたため、本社に栄転してきたのですが、1年半で大阪に戻っていきました。

 

 安心して挑戦できる風土とぬるま湯体質は紙一重です。「いい仕事をしよう。そうしないと仲間に対して恥ずかしい」という高い意欲と志を持った集団であり続けるのは至難の業です

 

 安心して挑戦するための最低条件は雇用保障です。企業業績が少しくらい悪くなったとしても、すぐに解雇されないことが雇用保障です。日本の企業は、正規従業員に対する雇用保障を大切にしてきました。

 

 しかし、最近、難しい状況が発生しています。日本の国内市場が低迷しているため、企業は新しい市場を求めて、中国やインドへ進出しようとしています。国内の事業所を閉鎖して、新たに成長国に拠点を開設する企業があります。

 

 日本国内での雇用がなくなるわけですから、雇用問題が発生します。そして、企業は従業員に選択を迫ってきます。「中国の新設事業所に赴任して頑張ってほしいんだが、どうだろうか。」

 

 若い頃ならまだしも、40歳を過ぎ、家族や生活の拠点が確立されてきたときにこう言われると悩んでしまいますね。何とか日本国内に残れないだろかと思うのは誰しも同じです。でも、国内の雇用の場は、細る一方です。「私には無理です」と言いたくなります。

 

 「無理だ。異動できない」と言う従業員の雇用を守る責任を企業は負うのでしょうか?

 

 この問題を次回、考えてみたいと思います。

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
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