論理的でない話の通訳

 これまでいろいろな場面で通訳をしてきました。クロアチアの国会議長が来日されたときは、衆議院議長との公式会見の通訳も務めました。なかなか緊張しましたが、貴重な経験でした

 

 通訳をしていていちばん困るのは、論理的でない話を通訳することです。オーストラリアでの出来事をご紹介します。

 

 オーストラリアの労使関係の現状について、労働組合役員が講義をしてくれました。この方の話が論理的でなかったのです

 

 その方の通訳を始めたとき、ぎくしゃくしてしまう自分に嫌気がさし、「英語力が落ちたな。勉強が足りないな」と思いました。冷や汗の連続だったのです。

 

 でも、30分くらい経ったとき気がつきました。「この方の話は、ちょっと論理的でないな。」そして、「論理的でない話を訳そうとしていたから苦労したんだ」と思いました

 

 決して責任を他人に転嫁するつもりはないのですが、通訳という仕事は、その方が相手に伝えたいと思っておられる内容を相手が理解できる言葉にのせて伝えることだと思います。単に単語を置き換えたのでは気持ちは伝わりませんから、それなりの配慮が必要です。

 

 通訳を通して聞いている方は、一生懸命、その人の伝えたいことを理解しようと努力します。だからこそ、話が通じ、理解し合えるわけです。しかし、話が論理的でないと、通訳の言葉がすんなりと入って来ません。「いったい何を言いたいのだろう?」と「?マーク」が連続的に出てしまいます

 

 日本語は論理的な言葉ではないと言う人がいます。日本語は、情緒や気持ちを表現するには適しているが、論理的に議論し合うには不向きな言葉だという説もあります。

 

 でも、私は違うと思います。日本語は、十分に論理的な言葉です。もし、日本語で話されることが論理的でないとすれば、話し手の内容が論理的ではないだけです

 

 話をするとき、自分が持っているのと同じ情報を相手が持っていることは稀です。相手が自分の話の展開について来られるように、一つ一つていねいに情報を重ねていくことが必要です。特に外国人に話すときには、そこに気をつけたいですね

投稿者プロフィール

藤村 博之
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授
法政大学大学院 職業能力開発研究所 代表
NPO法人 人材育成ネットワーク推進機構 理事長
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